久々に何もない夜、恋人のヒソカの家に行ったら彼は居なかった。元々同じ所に留まるような人ではないし、コンビニに行くみたいにふらっと出ていってそのまま一ヶ月帰ってこないなんてザラだから、そのまま彼のリビングにある大きめのソファにダイブする。

「そしたらね、見つけたの、テレビ台の収納スペースに入ってたコレを」
いつの間にか帰ってきていた彼は私の隣に座って「ふうん」と興味なさそうにそれを見る。薄いピンク色のマネキュアだった。
「だから、勝手に塗ってんの」
左手を少し上に掲げて、ムラがないかな、なんて呑気なふりをする。さっきこれを見つけたとき、本当は死にたいぐらい心臓がドキドキした。もしかして他に女を連れ込んでる?そう思って泣きそうになりながらそれを取り出して、震える心を落ち着かせるように、徐ろにそれを塗ったのだ。
「もしかしてボクが浮気したと思ってる?」
「…別に」
「ボク、爪もお手入れしてるんだよねぇ。やっぱ奇術師だし、指先の手入れは必要だよね」
別に、疑ってないし、そう言おうとしたのにうまく言えなかった。やっぱり彼には全てお見通しらしい。泣きそうになりながら彼の肩に頭を寄せて「ごめんね」と言うと頭を撫でられた。
「…右手塗ってよ。上手く塗れないの」
「…イイよぉ。動いちゃだめだよ」
にっこり笑った彼にすっと右手を差し出すと、彼は徐ろに手を揉みだした。
「な、なに?」
「ハンドマッサージ。気持ちいいでしょ?」
「う、うん…」
若干ぞわぞわとする感覚が背中から腰の辺りに走る。彼に触れられるとこうだ。少し嫌になりながらも我慢して彼にされるがままだった。
「クリーム塗ったげる」
「え、ネイルまだしてないのに」
「良いからじっとして」
手の甲に出されたハンドクリームは彼がいつも塗っているものだった。ふざけていやらしい匂いがする!と言ってからはあんまり使ってるところを見たことなかったけれど、まだ使ってたんだ、そんなふうに思いながら彼を見ていると目があった。
「なぁに?」
「や、何もない、ケド」
「そ」
そのままクリームを満遍なく彼は伸ばすように手に触れる。私の小さな手は彼の手にすっぽりと収まってしまうのが少しだけ嬉しくてきゅうと心臓が動く。そうしていたら彼は、指と指の間にまでクリームを塗ってきた。ぬるぬると動く彼の手がすごくいやらしくて私は手を引っ込めてしまった。
「こらこら、動いちゃ駄目じゃないか」
「あ…ご、ごめ、でもヒソカが変な触り方するから」
「変な触り方?」
くく、と彼は笑うとそのまま私の指をぱくりと咥える。びっくりして声も出せずにいると、そのままちろちろと彼の赤い舌が指を這うように舐める。
「ん、ちょっ、と」
「なに?」
「な、なにじゃなくて…なにしてるの」
「舐めてる」
指の隙間をちゅうと吸われるようにされ私は思わず声を上げてしまった。恥ずかしくなって口を抑えるために左手を動かそうとすると、その左手はそのままヒソカの右手と絡められてしまった。「動いちゃ駄目って言ったろ?」咎めるような言い方とは裏腹に彼は興奮しているみたいで、私はそのままソファに押し倒されてしまった。
「ボク怒ってるんだよ」
彼は私の額や頬にキスを何度も落とす合間にそう言った。何に怒っているのか考えようとしても彼の甘いキスが邪魔をして正常な思考が働かない。右手も左手も彼の手と重なり合って絡まり合う。指と指の隙間に彼の長くて綺麗な、だけれど少しゴツゴツした指が触れるのが愛おしくて、堪らなかった。
「浮気なんてするわけ無いだろ、ボクが」
ぎらりと光った彼の目に私は為す術もない。
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