クロロはコレクションすることが好きだ。そのためには手段を選ばない。時にそれは無慈悲で、自分勝手で、酷い行動だと思うけれど、それはもう仕方がないことなのだ。彼はそうしてでしか生きていけない。人のものを、特に、大切に大事にされてきたものをいとも容易く奪うことでしか幸福を感じられない。そうでもしないと、生きていると、実感できない。
彼が思い出や使えなくなってしまったものを大切にするのは知っていた。彼は過ぎたものが好きだから。コレクションはクロロの手に入った瞬間から風化する。外の世界から隔離され、彼が見つめるその瞬間だけときは動くのだ。まるで、魔法の砂時計みたいだと私は思った。
「クロロ」
名前を呼ぶと、彼は顔を上げる。読書中に話しかけてもよくて空返事がかえってくるかこないかなので私は驚いた。
「なんて顔してるんだ」
「だって、こっちを見るから」
「呼んだだろ?」
「呼んだけど」
決して、あいしてるなんて囁かない。彼の口の中で溶けた甘い言葉を知ることができるのはきっとそういうときだけだ。私は、彼のキスも、体も、熱も知らない。ガラス越しに触れる冷たい手のひらだけが、私の中の彼であり、私の全てなのだ。
「なんの本を読んでるの?」
「異国の本だ」
「読めるの?」
「勿論」
寒くもないし暑くもない。お腹もすかない。たまに喉が渇くと、クロロは水をくれた。私は自分が生きているのかよくわからない。それでも彼が微笑みかけたり、話しかけたり、私の問いかけに答えてくれるときだけは生きていると思えるのだ。
「ねえ、クロロ。クロロはいつか死ぬの?」
「いつかはな」
「それはいつ?」
「まだわからない」
クロロが死んだら私はどうなるの?
ふと考えたら、怖くなった。彼以外に私に会いに来る人はいない。クロロだけが私を認知して、私を生かしている。そのクロロが、死んでしまったら。若しくは、私に飽いてしまったら。私は死ぬのだろう。ひっそりと、誰にも知られずにゆっくりと枯れていくように。
「心配するな」
クロロの優しい、大きな手がガラス越しに触れる。
「死ぬときは一緒だ」
私は、まだ見ぬ死を待ち遠しく思うと、ガラス越しの救世主にそっと手を重ねた。
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