Two

「…、…夕翡!!」

「んー…うわっ!?」




暗闇の中、どこからともなく聞こえてきた声は温かくて。とてもとても優しくて…

痺れを切らしたのか、耳元で怒鳴られて。夕翡はようやく目を開けた。




「……夢?」

「夢? おはよう、夕翡」




さっきまでの暗闇とはうってかわって眩しいほどの光に包まれた部屋。太陽は既に昇り窓からは日の光が溢れている。思わず目を細めた。

目の前にいるツナの顔はしかめられていて、いまいち覚醒しきらない頭ではその理由は分からないけれど、とりあえず挨拶を返す。




「おはよう、ツナ…」




――あぁ、夢。

随分と懐かしい、そして縁起の悪い夢だ。それでも夢であったことにほっと安堵の息を吐き、ふと時計を見ると…




「…8時…10分!?遅刻じゃん!!!」

「そうだよ!だから早く!!」




学校には8時15分までに登校することになっている。どう頑張ってもあと5分で学校に付くことなんて出来ないけれど…夕翡は起きた。

すばやくベッドから抜け出してツナがいるのもかまわず制服に着替えて顔を洗って用意してあった朝ごはんを口に掻っ込んでカバンを取って…




「行ってきます!!」

「早っ!」




家を出た。その間わずか一分。女の子のすることではない…。と言うか人間業ですらない。

そして夕翡たちは並中まで猛ダッシュ…するけれど間に合うはずもなく。着いたとき時計の針は15分を過ぎていて、校門の前には風紀委員が立ち並んでいた。

普通なら申し訳なさそうな顔を…少なくとも嬉しくはないだろうこの状況で。怯えるツナとは対照的に夕翡嬉々とした表情で。明るい声で叫んだ。




「きょーくーんっ!今日こそツナの嫁に「ストープッ!!」 何っ!」

「また変なこと言わないで!!早く学校に行けよ!!」




夕翡の言葉をさえぎったのはツナで、あからさまにげんなりとした顔をしている。その理由は簡単だ。夕翡が何を言わんとしているか想像が付いているからである。

夕翡はいつもツナと一緒に並中まで登校し、恭弥に「ツナの嫁になってください!!!」とか「恭君はツナの嫁だよ♪」とか「お姉さん。いいなぁ」とか色々言っているのだ。そのせいで何度も風紀委員に睨まれていることだろう。

けれど夕翡は風紀委員などまったくこれっぽちも怖がっていないので、どれだけいっても無駄で。毎日毎日ラブコールをするのだ。




「夕翡も遅刻だろ!?早く学校に行けよ!」

「え?遅刻なんて関係ない!今日こそ恭君をツナの嫁にー!!」

「やめろー!!」




ツナに涙目で、睨まれてはさすがの夕翡も何もいえなず…、渋々口を閉じた。




「むー。分かったよ!じゃぁ、帰りね」

「うん」




ツナは校舎の中に走っていった。

夕翡が何かをしでかさないか不安になりながら。



一方夕翡は…学校に行く気などなく。



「屋上行こう♪」



並中の屋上に向かった。

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