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「・・・・・はぁ。止めようかなぁ。」



これは何回目の溜息と言葉だろう。

私は思い足取りで応接室へ向かっていた。

昨日の雲雀さんと咲希ちゃんが何度も頭の中に思い浮かんで・・・

2人を見ていつもどおり笑える自信はなかった。



「愛歌先輩!」

「咲希ちゃん・・・?」



なんで・・・。

今一番会いたくなかったのに・・・。

私がそんなこと思っているなんて考えもしてないんだろう、咲希ちゃんはにっこりと笑った。



「どうしたんですか?」

「ううん・・・なんでも。」

「早く応接室にいってあげてください。雲雀先輩も愛歌先輩もきっと喜びますよ。」

「?」



何を言っているんだろう・・・?

嬉しそうな咲希ちゃんに後押しされ、私の足は応接室へ向かった。


トントン


ノックすると雲雀さんの声が聞こえて、そっと応接室に入る。



「やぁ、今日は遅かったね。」

「あの・・・?」

「座りなよ。」



雲雀さんは珍しく、書類を手に持っていなかった。

ソファに深く座り、薄く笑っている。

間のテーブルにはケーキとお茶が準備されていた。

私は不思議に思いながら雲雀さんの向かいのソファに座った。



「今日は仕事・・・いいんですか?」

「たまにはね。」

「咲希ちゃんは・・・。」

「今日は先に帰ってもらったよ。僕が言わなくても帰るつもりだったんだろうけど。」



そういえばカバンを手に持っていたような・・・。

ますますどうして?と不思議に思っていると雲雀さんが何かを差し出した。

小さな・・・箱?



「えっと・・・」

「はい。」

「え??」

「・・・案外鈍感だね。あげるっていってるの。」

「え・・・ぇええ!?

「今日・・・付き合い始めて1年なんだよ。」

「・・・ぁ。」



そう言えばそうだった・・・。

ここ最近咲希ちゃんのことで悶々しすぎてすっかり忘れていた。

私が半ば呆然としながら箱を受け取れば、雲雀さんは少し笑ってくれた。



「それと・・・桜が言ってくれてね。」

「咲希ちゃんが?」

「もう少し君と一緒にいてやってくれって。」

「・・・え?」

「君のプライドのために言わないで欲しいって言われてたけど・・・。
 慣れない環境で不安な彼女にとって風紀委員はとてもいい場所だけれど、君と僕のいる時間が減るのは不服だと。」

「・・・・」

「僕のことを疑ってなくても、僕と桜が一緒にいるのを見て嫌なはずだからってね。」

「・・・咲希ちゃんが・・・。」



そこまで私のことを思ってくれていると思うと、ぎゅぅと胸が苦しくなった。

それでも嬉しくて・・・ポケットからハンカチを出して目元におしつけた。

いつの間にこんなに涙脆くなったんだろう・・・。



「私っ・・・不安でした・・・。咲希ちゃんと一緒にいるほうがっ、雲雀さん、楽しいんじゃ・・・ないかってっ・・・」

「うん。」

「咲希ちゃんは新入生で、元々人見知りが激しい性格っ、みたいだから・・・ここにいるのが純粋に嬉しいってことは分かってますっ・・・でもっ



すっとキスをされた。

いつものようなものじゃなくて、安心させるように優しく・・・。

いつの間にか私の隣にきてくれていた雲雀さんは、そのまま私を抱きしめてくれた。



「不安にさせて・・・悪かったね。」

「雲雀さん・・・」

「昨日のこともあって、嫌な思いさせたと思うけど。」

「昨日って・・・気付いてたんですか!?

「うん。あの草食動物とだいぶ群れてたよね・・・。」



ゴゴゴゴと雲雀さんの後ろからそんな不穏な空気が見えそうで私は胸に顔をうずめた。

涙がすっかり止まってしまう。



「桜は気付いていなかったようだし、下手に言ったりしたら慌てそうだから。」

「慌て・・・?」

「ただでさえ僕達が何かあるんじゃないかって君が思ってるんじゃないかって不安に思ってたんだ。ケーキ屋に一緒にいたところを見られたなんて知ったら学校止めそうだろ。」

「・・・確かに。」



咲希ちゃんならやりかねない・・・。



「じゃぁ、あの時一緒にいたのって・・・。」

「一緒に色々選んでもらってたんだよ。」

「っ、ありがとう・・・ございますぅう゛・・・」



また涙が溢れてきた。

雲雀さんが優しく背中を撫でてくれるから、余計涙が・・・。

私は泣いた。気が済むまで泣いた。

泣き終わったらフザイクとか言われてショックだった・・・けど、泣いた後って本当に可愛くないし。

それから2人でケーキを食べながら久しぶりにいっぱい話した。

あぁ、ありがとうございます。



咲希ちゃん、ありがとう。


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