《お喋り》
ある日の事。パブリックフォンがタイヤに二つの紙コップを手渡した
きょとんとしながら。渡された紙コップを良く良く見て見れば、紙コップの底には二つの紙コップを繋ぐように一本の糸が。
「‥あの‥これは?」
「糸電話」
「いと?」
あれ、知らなかったか。と言いながら
パブリックフォンはタイヤに渡した紙コップの片方をヒョイと取ると、残った紙コップを耳に当ててみろよ。そういって、コップを耳に当てるジェスチャーをやって見せる
「こう、ですか?」
言われた通り、紙コップを耳に当てたタイヤ。そして
もう一方をパブリックフォンは自分の口へと当て。たった二文字、言葉を発した
「好き」
「‥っ!?」
コップの中に、パブリックフォンの声が反響する。くぐもった声が、空気を振動させて耳に届く
それは直接耳元で声を発せられた時なんかよりも、ずっとずっと質の悪いもので
「あ、あんた‥っ!」
ゾワリ、と。体が震えた
パブリックフォンと、タイヤの主人は声の質が似ている。そのせいだろうか
彼が。不意をつかれた時等に、パブリックフォンの声に反応してしまうのは
「お前もそれなりに可愛い所、あるんだよなぁ‥」
片手で耳を塞ぐ様にして手の平で覆い。もう一方の手で、ドクドクと鳴る心臓を押さえているタイヤを見て
パブリックフォンはクスリと笑う。
「‥‥電話さん、俺も今からあんたに“電話”しても良いですか?」
そう言って、今度はパブリックフォンに紙コップを耳に当てるようお願いをすると。
タイヤはもう片方のコップに向かって
「愛してる、フォン‥」
と。甘く囁き、パブリックフォンが驚きのあまり一瞬固まって
言われた言葉を理解した瞬間に。元々赤い彼が、更に真っ赤に染まるのだった
(林檎みたいで、甘そうですね)
(あ、甘い訳ないだろ馬鹿!)