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《後輩の事》





「タイヤの奴が、最近おかしいんだ」

そう言って、ソファーに腰掛けるタクシーが。彼にしては珍しく真剣に悩んでいる


「タイヤが変?」

「‥ああ、あいつ。最近飯食わないんだ」

「アイツは、前から飯らしいモン食ってなかった気がするが」

「‥そうじゃなくて。チョコレート以外、ほとんど食ってないんだよ」

「何だそれ」


どういう意味かとミラーマンが問いかければ、タクシーは説明に困っているのか。ああでもない、こうでもないと一人でブツブツ呟いてから

言葉を選ぶように、ゆっくりと話し出した。


「確かにあいつ、前から滅多に甘い物以外食べなかったけど‥最近、大好きだったケーキも食わなくなって‥」

「代わりにチョコレートばっか食ってるってか」

「‥うん」


ミラーマンは、タイヤがチョコレートしか食べなくなった理由を知っている。けれどもそれは、タイヤ本人からタクシーには言わないで欲しいと口止めされている為、彼は何も伝えない。


タイヤがチョコレートしか食べなくなったのは、体質の変化。それ以外の物を体が受け付けなくなったせいだ

タクシーのタイヤは元々冬場には向いていない。加えてタイヤは、雪に対して恐怖という感情を抱いている

慣れない環境、苦手な物。それらと常に接していなければならないこの季節


元々甘い物しか受け付けなかったタイヤの体は、今、この状況下で一番彼にとって必要な物と判断された食べ物以外、受け付けなくなってしまっていたのだ。


(チョコレートってカロリー高いからな‥)

精神力が大きく影響してくるこの世界で。恐怖で精神を磨り減らしてしまえば消滅しかねない


精神力が足りなくなった分、体力で補おうとした結果が。彼の体質変化の原因なのだろう



「なぁタクシー」

「何だ?」

「‥タイヤの奴は、お前が思ってるよりも。ずっとずっと弱い存在だ。大事にしてやれよ」

「今更なんだよ。そんな事、言われなくても分かってるって」

「いや、只。何となくさ」


と、ミラーマンは誤魔化す様に笑うと紅茶の入ったカップに手をかけ。それを、こくんと一口飲み込んだ



(お前が本当にアイツを大事に思うなら、早く気付いてやるんだな‥)



言葉にならなかったその声は、紅茶と一緒に、彼の中へと消えていった。