《暖》
「最近寒いよな」
そう言ってから思い出した様に。嗚呼でも、この部屋に寒さは入って来ないのか。と、一人納得しているのは地獄のタクシー
彼は友人である人物、ミラーマンの部屋で寛ぎながら冬の始まりの寒さから少しの間、身を隠す
「ミラー、ぎゅってしても良い?」
「却下」
「‥だよなぁ」
人肌が恋しいと、残念そうにタクシーが言えば。後輩に抱き付いておけと返される
「無理だろ。そんな事したら、また殴られる」
「お前、アイツとは家族だって言ってる癖に仲悪すぎだろ」
「俺は仲良くしたいと思ってる」
「一方的にな」
ケラケラと笑うミラーマンが、寒がっているタクシーに温かい飲み物を煎れてくれた
カップを手にとってみれば、その温かさに思わず笑みが零れ落ちる
「有り難う」
「おう」
「あったかいなぁ」
彼が良く見せるへらりとした笑い顔を見て、今度はミラーマンがクスリと小さく笑う
「何時見ても本当に阿呆面だよな」
「え、酷い」
しょんぼりと落ち込むタクシーの隣にミラーマンが腰を下ろして、自分よりも大きい彼に寄りかかって目を閉じる
「飲み物よりも、お前の方があったかいだろタクシー」
寄りかかって体重の一部を預けてくるミラーマンを、片腕でそっと抱きしめたタクシーが言った
「そうか?そう言うお前も、凄くあったかいよ。ミラー」
温かい飲み物と、直ぐ傍にある優しい温もり
外の寒さなど忘れてしまう程、心も体もほんわかとして温かくなった
(この温かさが隣にあれば、今年の冬も乗りきれそうだ)