《数合わせ》
何時もみたいに、鏡の部屋に遊びに行った俺は。何時もと違う光景に只々ぽかんとするばかり
「ミラー、その子は‥?」
親友であるミラーの膝の上には。綺麗に澄んだ青色で、大きな瞳の一匹の白い子猫。
その子はミラーの膝の上で、撫でて貰って気持ち良さそうにごろごろ喉を鳴らしている
「猫だな」
「見れば分かるって。いや、そうじゃなくて、どうしたんだ?」
「嗚呼、迷い込んで来たから構ってやってんだよ。目の色が気に入ってな」
ふ、と。表情を緩めたミラーが、お前の目の色に似てる。なんて言うから、一瞬吃驚して。
でもそれって俺の目も褒められたのかなって。嬉しくなった
そういえばミラーは、青い色が好きだったっけ。
「この部屋に子猫が迷い込んで来るなんて事あるんだな。なぁ、俺にも抱かせてくれよ」
「おい、待っ‥!」
ミラーの膝の上の子猫が凄く可愛くて、ついつい俺も触りたくなって。静止も聞かずに抱き上げようとしたら、
子猫の姿が、突然見慣れたモノへと変わって
「うわぁ!?た、魂‥!?」
思わず手を離すと
「おいコラ、タクシー、乱暴に扱うな。まだ子猫なんだぞ」
俺の手放した魂に両手を差し伸べて、包み込むように。抱きしめるように自分の方へとミラーが引き寄せれば
腕の中の魂が。また、可愛らしい子猫へと姿を変えた。
ミラーの腕に抱かれた子猫は、やっぱり気持ち良さそうで。目を瞑って擦り寄るように、ミラーの服に耳の辺りをぐいぐい押し付けてる
「魂、なのか‥?」
「迷い込んで来たっつただろ」
「その見た目なら普通は魂だと思わないだろ」
「存在が不安定だから、直ぐ魂になるんだ。仕方ねぇから、俺が安定させてやってんだよ。まだ小さすぎて自分が猫だってきちんと理解してねぇ‥だから、自分を見失わない様にしてやらないと」
腕の中の子猫を撫でながら。ミラーはそう言う
確かに、弱い魂なら、能力の高いミラーの傍にいたら安定するし。俺もその一人だから、言われた言葉を受け入れるのに時間はかからなかった
「‥お前凄いよなぁ‥」
只の魂をみて、それが何故子猫のモノだと分かるのか。仮に分かった所で
それを魂に直接分からせ、存在を安定させてやるなんて。そんなの、普通の住人に出来る事じゃない
「あのなタクシー、お前は知らないかも知らないが俺は‥」
「うん?」
「‥いや。何でもねぇ‥。んな事より、悪いがこの猫の魂現実に戻してやってくれないか」
「返すって、そんなに懐いてるのに」
「コイツが居ると迷界の魂の数が狂うんだよ」
「‥はぁ」
時々、ミラーは良く分からない話しをする。迷界の魂の数なんて
どうしてお前が知ってるんだ。そう言ったら、お前には関係ないだろ。だって
「現実に連れていくのはいいんだけど」
「あ?」
「少し、触りた‥」
そろりと伸ばした手。それが子猫の体に触れる前に
「わ!痛ッ‥!いたたたた!?」
振り返った子猫に。思いきり指を噛まれ。それを見ていたミラーに。ケラケラと笑われる俺だった。
(犬科は嫌いだとさ。残念だったな)
(ええ?!何だよそれ。じゃあ懐かれてるお前は猫科なのか!?)