《ワーカーホリック》
俺の親友は不眠症だ。ろくに寝れてないくせに、それでも仕事はきちんとこなす
だから、アイツはいつか絶対事故ると思ってる
「また寝てないのかよ」
「寝てないんじゃなくて、眠れないんだ」
何時からだろう。タクシーの奴が眠れないと言い出したのは
最近だったような。ずっと前からだったような
何故か記憶は曖昧で、眠ってるタクシーを見たのは。何時が最後だったかすらいまいちちゃんと覚えてなくて
「俺のベッド貸してやるから。横になるだけなっとけ」
「え、良いのか?」
「車ん中で寝るよりずっと寝やすいだろ。もしかしたら、少しは寝れるかも知れないぜ?」
「‥そう、だよな。有り難うミラー」
どうにかして眠らせてやりたかったけど。何をやっても、タクシーはほとんど眠る事が出来なくて
アイツは日に日に、弱っていっている様に感じた。
(欠陥品、か‥)
タクシーの奴が良く、自分は欠陥品の車なのだと言って、悲しそうに笑っていたのを思い出した
俺は、アイツがそう口にする度、大袈裟な話しだろうと大して気にはしていなかったけど
一緒に過ごしていく時間が増えれば増える程。タクシーという奴が、本当に壊れた車なのだと思い知らされていく
車と神経の繋がった体。コイツの本体は、車の方で、今俺の部屋にいるタクシーは
正直存在自体意味が分からない、気味の悪いモノで。本来居るべきはずのない生き物だ
狂気に飲まれやすく、それなのに。狂気を鎮める能力があって
常に、酷く不安定な状態で綱渡りしているはずなのに。滅多にバランスを崩さない精神力の持ち主で
その反面、一度バランスを崩せば手に負えないモノになる
(‥コイツは、この世界でも異端児だから‥壊れてしまったら、修復のしようがないんじゃないだろうか)
力が弱くて、お人好しで。狂気に飲まれやすくて。存在自体が曖昧で不確かなモノ
そんな奴がこの世界で生きていけている事自体、おかしな事なのに
タクシーの奴があまりにも、普通にしてたから。何時も、笑ってたから
いつの間にか、タクシーが居るという事が当たり前になってしまっていた
(こんなにも気味の悪い奴を、俺はどうして傍においておきたいと思うのか‥)
知らず知らずの内に俺は。この良く分からない存在に、侵食されてしまったらしい
(コイツの元が何であれ。今は俺の親友だって事には違いないから)
なんて思いつつ。視線をベッドの上のタクシーに向ければ、案の定眠れなかったらしく
じ、っと。俺の方を見ていて
目が合った瞬間、へらんと気の抜けるような笑みを返して来た
(‥‥寝れないからって遊んでんじゃねぇよ阿呆!)
(えー、だって、仕方ないだろ。ベッドの上って凄く退屈なんだ)