《今すぐ》
初めて出来た友達は、鏡の面をつけた奴だった
何て、ふと。車に備え付けられたバックミラーを見ながら、運転手は思った
「ミラー、なぁミラー。聞いてる?」
「‥何だよ。話しかけんな運転に集中しろ」
鏡に向かって声をかければ、鏡の部屋の中に引きこもっている彼が何時でも言葉を返してくれる。それは最早当たり前の事で、違和感等はとっくになくなっていた
「会いたい」
「‥あのなぁ。だから、運転に集中しろ馬鹿」
鏡越しに聞こえる声が、素っ気ない物に思えてくる。
「ミラー‥」
一度会いたいと思ってしまえば、もうその気持ちを押さえる事は出来ない。
「今から、会いに行っても良いかな」
「‥は、そんなに俺に会いたいのか」
「うん。凄く、会いたいよ」
「‥‥そうかよ‥分かった。来るならさっさと来い。で、さっさと仕事に戻れ阿呆」
そう言った、彼の声のトーンが若干変わった気がして。今、彼がどんな顔をしているのか
見て見たくて、堪らなくなってしまった。
「ん、有り難う。直ぐ行く」
きっとミラーマンは、照れ臭そうにして。だけど、ちょっぴり嬉しそうな顔をしているに違いない
そんな彼の顔を想像しながら、タクシーはハンドルを切って目的地をホテルへと変更した
(一分でも一秒でも早く、お前に会いたいよ)