「鰐塚先輩は宗像先輩以外に殺されたいとか思ったりしないんですか?」

 今日のお仕事は開発途中の新薬の実験台。名瀬ちゃんの準備が整うまで私は実験工房の壁際に設置された棚の中に綺麗に並べられた薬瓶を眺めて時間を潰していた。これ頼んだら少し分けてもらえないだろうか。なんて考えていたら準備が整ったらしい名瀬ちゃんに冒頭の質問をぶつけられた。

「え? 名瀬ちゃんのナイフで私の目を一思いに刺してほしいなって思ってるよ? 脳味噌までぐちゃぐちゃに掻き回して殺してもらえたら最高」
「そうですか……」

 可愛い後輩からの質問に正直に答えたら少々引かれてしまったようだ。でも聞かれたからには答えなきゃ。殺されることにかかわるのであれば尚更だ。

「名瀬ちゃん、もしかして殺してくれるの?」

 なんて戯れ言を抜かしてみれば名瀬ちゃんはわかりやすく首を横に振った。

「実験の過程でならそれもあり得るかもしれませんが……それ以外で俺が先輩を殺すなんてことはあり得ないんじゃないですかね」
「はは、冗談だよ。私はチャンスがあれば喜んで殺されるけど、嫌がる人に強要したりとか今はしないから」
「今は、ね……。じゃあ、準備出来たんで手術室行ってください。今回のは死にはしないと思いますがめちゃくちゃ痛いはずなんで」

 めちゃくちゃ痛い。
 その言葉に思わず口元が緩んだ。
 痛みは死を連想させるから好きだなんて言ったら被虐趣味を疑われそうだけど、そうじゃない。私が本当に欲しいのは死へ直結する痛みだ。強要しないと言った手前下手なことは言えないけど、名瀬ちゃん、私のこと殺してくれないかなあ。





 名瀬夭歌がフラスコ計画に参加して最も衝撃を受けたことは鰐塚刀理に対して行われている実験のえげつなさである。
 ある者はそれを地獄と呼んで忌避した。
 自ら不幸を追い求めてきた名瀬にとってそれは魅力的なものに見えた――が、いくら魅力的に見えてもあれはだめだ。
 一体あの先輩はこの計画に参加してから何回死んだんだ?
 そう思わずにはいられないほどの非人道的な実験が刀理に対して行われていたのだ。誰しもが刀理と同じように殺されたら生き返るわけではないからこそ、これらの実験を万人に適用できるようになれば、それはフラスコ計画にとって最高の収穫になるだろう。

「なるほどどうして、天才の養殖ってのは一筋縄じゃいかねえわけだ――」

 研究者としては最高に燃えるがね。



なんて戯れ言を抜かしてみれば





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