殺されることが好きな私は予期せぬ死亡フラグに内心浮き足立っていた。あの規格外に太い螺子で身体を貫かれたらどんなに気持ちよく死ねるだろうかと妄想に耽ったこともある。願いは叶うものだ。現に螺子は私の四肢と腹を貫いて床に突き刺さっている。お陰で廊下は血の海だ。ごめんね理事長、校舎汚しちゃった。まあ殺されれば元通りだけど。私が宗像くん以外に殺されることなんて滅多にないことだ。それだけの理由で私は球磨川禊に殺されてみようと思った。
 それなのに。

『大嘘憑き』

 この男は私の死を手折った。
 私に与えられた傷がみるみるうちに綺麗さっぱり『なかったこと』になっていく。四肢の拘束こそ解かれていないが、これでは死ねたもんじゃない。

「どうして……?」

 抗議の目を向ける私に対して球磨川禊は何がそんなに可笑しいのかへらへらとした笑みを浮かべながら、手に持った螺子を私の太ももに突き刺した。廊下が再び血で汚れた。

『小学生の頃に言われたでしょ? 人の嫌がることは進んでしましょうって』
「っ、それは、意味が違うんじゃないかなっ」
『鰐塚刀理さん。きみは殺されることが好きみたいだから傷つけて傷つけてあと少しで死ぬってところで傷をなかったことにしてまた傷つけて――っていうのを繰り返そうと思うんだ。どうだい、殺されたがりのきみからすれば発狂ものの嫌がらせのはずだ』
「――酷いね」





 結論から言うと、殺してもらえなかった。何度も何度も何度も何度も繰り返し嬲られてはその痕跡をなかったことにされ続けた。はっきり言って最悪だ。そして殺されないことに嫌気が差して泣き出したところで無傷で解放され、変なところで紳士的な球磨川くんはハンカチまで貸してくれた。絶対に返してやらない。……やっぱり、宗像くんじゃなきゃ私をちゃんと殺してくれない。

「宗像くんに殺されたい……」

 まるで恋する乙女のように、私は宗像くんという存在に焦がれていた。



この男は私の死を手折った





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