指先にそっと息を吹きかけて、それが乾くのを待っていた。


 お風呂上がりの単なる気まぐれだった。明日着る服も持ち物も用意し終わってあとは寝るだけってときに、ヘッドボードに置いていたそれがたまたま目に入った。
 先日、誕生日祝いに名瀬ちゃんと古賀ちゃんがプレゼントしてくれた薄青色のマニキュア。高校生の時分ではネイルって休みの日じゃないとできないし、なんとなく、塗ってみようと思った。親切なことにベースコート(下地みたいなものらしい)とトップコート(仕上げに塗るらしい)もくれたので先にベースコートを塗った。メインカラーはそれが乾いてから。
 ボトルの縁で量を調節してから、試しに利き手とは逆の人差し指の爪に刷毛を滑らせると、綺麗な色が乗った。透き通るような淡いブルーに控えめなラメがきらきら輝いている。おお、綺麗だ。爪がきらきらしている。気をよくして残りの爪にも色を塗った。透き通っているけれど、輝くラメが水面の反射のようにも見えるけれど、空の青でも海の青でもない柔らかい青だ。今なら世の中の女の子がネイルしたくなるのもわかる気がする。だって可愛いもん。
 仕上げのトップコートまで抜かりなく塗り終えて、あとは乾くのを待つだけ。
 ただ爪に色を塗っただけなのに、どこか晴れやかな気分だ。
 殺されることに重きを置く人間じゃなかったら、私ももっとお洒落に気を使っていたかもしれない。綺麗な色彩にはしばらく眺めていられるだけの魅力があった。眺めながら、ふと、はたして宗像くんはこれに気づくだろうかと思った。仮に気づいたとしても、何も言わないだろうなあ。宗像くんはそういうタイプだ。私が毎日ワンピースを着ていることに気づいても、似合っているねとかそういう褒め言葉を差し置いて「ワンピースが好きなの?」と聞くような、そういう男の子だ。別に褒められたかったわけじゃないし、そういうのは必要ない。宗像くんは私を殺してくれるだけでいい。……事実だけどなんだか俗っぽいな。まるで身体目当ての人みたいじゃない? もうちょっと良い言い方をしたい。
 あくまでも私の予想だけれど、宗像くんは気づく。そして何も言わない。私から何か言うこともない。それでも、もし万が一にでも褒められたら、それはそれで嬉しいんだろうなあ。



柔らかい青





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -