「74820761897227」
「37927472383839」
「わあ、すごい」
早起きしたから一番乗りを狙って来たのに、時計塔地下五階の駐車場には先客がいた。
つい先日球磨川くんにクーデターを起こされて奮闘中のめだかちゃんだ。興味本位で挨拶をしてみたらご覧の通り。この言語で挨拶を返せる人間は私含めてこの世に四人だけだろう。
「鰐塚三年生、なぜ貴様がその言葉を……?」
ジャージ姿のめだかちゃんが怪訝そうな顔をする。
「つい最近冥加ちゃんと知り合ったから覚えたの」
「なるほど、そうだったのか」
合点がいったようだ。話が早くて助かる。
多分、めだかちゃん以外だったら「どうやって?」って話になってた。
「それにしても早いね。黒神くんや日之影くんだってまだ来ないよ?」
私が来たのも偶然だし、凶化合宿はひとりで行えるようなものじゃない。
指導役が来るまで何もしようがないのに、この子は何をするつもりで来たんだろう?
先陣切って待機しちゃっただけかなあ。まあ、なんでもいいや。
ちなみに私は誰もいなかったら読書で時間を潰すつもりだった。
「めだかちゃんさえよければ先に始めようか?」
折角めだかちゃんがいるのに何もしないってのはナンセンスだ。
それに、バッグの中の文庫本は帰ってから読めばいい。
「ふむ……そうだな、お願いしよう」
「オッケー、ちょっと待っててね」
みんなが揃ってから〜とか悠長なことを言っていられない現状、当然めだかちゃんは頷く。
ほんの少しの時間だけれどめだかちゃんとふたりきりで何かをするのって初めてだなあ、なんてどうでもいいことを考えながらトレーニングの準備を始めた。
「それにしても、まさか鰐塚三年生とこうして協力関係を築けるとはな」
私が協力しているのはあくまでも黒神くんなのだけれど、それは言うだけ野暮だな。
「そうだねえ。私も五日前に会ったばかりの、それも初対面で戦った相手とこんな風に特訓することになるなんて思ってなかったよ」
めだかちゃんと出会って戦ったのもフラスコ計画が凍結したのも宗像くんたちが入院したのも全部五日前の出来事だ。七月十五日に色んなことが集約され過ぎている。
「――ひとつ訊きたいことがあるのだが」
「なあに?」
「なぜ貴様は死にたがる?」
……そこまで親しくもない相手にいきなりそれ訊く?
もし私を理解しようとしての質問なら及第点くらいはあげてもいいけど……やっぱりあのとき一回くらい殺されて生き返っておいたほうがよかったかなあ。
そしたらめだかちゃんも完成で十全に私のことがわかったかもしれない。
「それが私の異常性だからだよ」
と言っても当たり障りのない答えじゃ納得してくれないだろうなあ。どうしようか。
「宗像三年生は自らを理由ありきの殺人者だと言っていたが、鰐塚三年生、貴様は理由なき死にたがりなのか? 理由ありきの死にたがりなのか?」
ほら、さっきみたいにそうだったのかで終わらない。
そもそもの前提が違うんだよなあ。
私は他殺志願の殺されたがりであって、希死念慮の死にたがりじゃない。
自分で自分を殺すこともあるけれど、それよりも殺されるほうが好きだ。
わかってないなあ、めだかちゃん。まあ、わかるほうが珍しいか。
「ひとつって言ったよね? それ以上はご想像にお任せしようかな」
きっときみにはわからないから勝手に想像して勝手に納得して勝手にわかった気になっていればいいよ。どうしてもわからなければ私を死にたがりじゃなくて殺されたがりと呼べるようになってからまた訊きにおいで。そのときは懇切丁寧に答えてあげるから。
それでも、きみには私のことなんてわからないと思うけど。
「お喋りはこれくらいにして続けようか」
「……ああ、中断させてしまってすまない。続けてくれ」
とっても腑に落ちないって顔してるけど、それ以上は訊いてこなかった。
それじゃあ、いつになるかわからないけどめだかちゃんが人の心を理解できるようになるまでこの話はお預けってことで。
きっときみにはわからない