[ 柔造→矛造/シリアス ]







自分の気持ちが分からなかった。



坊は勝呂達磨大僧正の息子。

廉造は末の弟。

どちらも自分にとって大切な存在。

だがそれ以上に、矛兄の事が好きだった。



矛兄は、昔から俺の憧れだった。

何でも出来るし、周りの人間から慕われていた。

「柔造」と名前を呼ばれてあの大きな手のひらで頭をガシガシと乱雑に撫でられるのが好きだった。

それだけで十分で、今まで感じていた劣等感や嫉妬など吹き飛んでしまう程、矛兄に依存していた。





冷たい雨が降り注ぐ、青い夜。

目の前には血を流して倒れている一人の男性。

愛しいその瞼に、ぽつりぽつりと水滴が垂れる。

眠っているようだ、と思った。



「...どうして、矛兄が死ななアカンのや」



やっとの事で絞り出したその声は、自分のものとは思えないほど震えていた。

どちらの血かも分からなくなった血がついた手で、そっと矛兄の頬を撫でる。

冷たい。悲しいぐらい冷たい。



「柔造!」



後ろで俺の名前を呼ぶ声が聴こえる。

明陀の仲間だ。だが、返事などする気力などなかった。



「矛造は?!」



「...この通りです」



明陀の一人にそう問われると、自分でも驚くぐらい掠れた声でそう答える。



「...駄目やったか」



明陀の一人が無念そうに声をあげる。

他の者が啜り泣く声も聞こえる。



「...妻も子供も、殺されてしもうた」



「もう明陀は終いや」



関をきったように、次々と聞きたくない声が聞こえる。



終いやない。矛兄が命懸けでまもったものが、残っとるやないか

目の前にいる矛兄をじっと見つめる。

でも、矛兄がおらんと意味ないんや。

戦い方、まだ全部教わっとらんし、これから先ぎょうさん相談したい事があったやろうし。

それと弟達の成長、それから明陀の行く末を一緒に守っていきたかった。

再び開く事のない矛兄の頬を、再度撫でる。

そして俺は、ある決断をする。





「矛兄が坊と廉造を守ったように、これからは俺が明陀を守ります」



さっきまでの声とは違い、強い意志を持ったハッキリとした声でそう言う。

そして、ゆっくり後ろを振り返った。



涙は、顔を流れる雨の雫でうまく隠せていただろうか。

雨はまるで悲しみを洗い流そうとするかのように、延々と降り続いていた。







あなたが傍にいてくれたなら

( きっと、こんな思いはせんでえかったんやろなぁ )













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