[ ナイン→エース/渇望 ]







彼はナインにとって高嶺の花だった。色素の薄い金色の髪を揺らしながら颯爽と歩く様は、そこら辺にいる女よりも綺麗だった。売店の前にある自動販売機で買った空になった紙パックのジュースを行儀悪く音をたてて吸いながら、ナインは離れたところにいる金色の彼をぼんやり見つめる。自分と同じ金色の髪なのに、こんなにも違うものなのか。ナインの金色の髪は彼のものより色素が強く、髪の毛の一本一本が太い。ワックスもつけているので、触り心地は最悪だ。なのに、彼の髪質はナインのものと真逆だ。嗚呼、彼の髪に触ってみたい。ぐしゃぐしゃと撫でまわしたい。そしてその勢いでベッドに押し倒して―――。厳つい外見とは裏腹に、中身は変態であった。





ナインが通っているこの学校は、全部で8クラスある。生徒は1組から成績優秀順に振り分けられる。金色の彼は秀才の1組、そしてナインはおちこぼれクラスの8組に所属している。やはりどの学校でも成績の格差はあるもので、入学当初のナインは教師や他の生徒からの冷ややかな視線が気になって仕方なかったが、今ではもう慣れてしまった。まったく、慣れというものは怖いものである。とっくの昔に飲み干してしまった髪パックのジュースを噛みながら、ナインは貧乏揺すりを始めた。





ナインは本能で動いているタイプである。頭の中で考えるより、行動する方が性に合っている。そんなナインが何故金色の彼にアタックしないのか。そう、ナインは恋愛に関してはまったくのド素人だったのである。つまりは、ナインが抱いているこの感情が恋だという事を、本人は気付いてないのである。机に肩肘をついて、彼をぼんやりと見つめる。外見が厳つい上に、貧乏揺すりをしているナイン。周りの人間からは近寄りがたい空気を発していた。





不意に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。周りの生徒は慌てて席を立ち、教室へと戻っていく。ナインも重い腰を上げ、遠く離れた位置にあるゴミ箱に向かって紙パックのジュースのゴミを投げる。綺麗な放物線を描きながらゴミ箱に飛んでいったが、ゴミ箱の端に当たって入らなかった。ナインは舌打ちをして、その場を後にする。そのとき、不意に背後から声がした。





「おい。これ、ちゃんとゴミ箱に捨てないと駄目だろ」





「あ゛ぁん?」





咎めるようなもの言いに、ナインが眉根を寄せて如何にもガラの悪い声を出しながら振り返る。ナインが先程投げて入らなかった紙パックのジュースを差し出していたのは、あの金色の彼だったのである。ナインは驚いた。1組の生徒は8組の事を軽蔑するのはおろか、関心の対象にもなっていないと思っていたからだ。





「だから、ちゃんとゴミ箱に捨てろよ」





「....お、おう」





先程の勢いとは打って変わり、ナインは相手に差しだされるがままそれを受け取った。それをゴミ箱に捨てると、彼は満足そうに笑う。





「今度からちゃんと捨てろよ」





そう言い残して、彼は行ってしまった。ナインは呆然とその場に立ち尽くしていた。我に返ったのは、授業開始のチャイムが鳴った時であった。





I want you as a hand comes out from a throat.

( 喉から手が出るくらい、君が欲しい )





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