[ 勝呂×廉造/大人のお話 ] 真っ暗な夜空に、明るい月が昇る。 今夜は満月だ。 「坊っ...」 目の前には愛しい勝呂の姿。嬉しくて、廉造の表情も自然と笑顔になる。 そんな廉造の表情を見て、勝呂も頬を緩ませる。 祓魔塾で勉学に励んだ学生時代もあっという間に過ぎ去って、現在勝呂と廉造は20歳。 勝呂は正式に座主に、廉造は勝呂を守る一人前の坊主として。 二人は大人になった。 「坊、久し振りですね。元気にしてはりました?」 「当たり前やろ。志摩も、その様子やと元気そうやったみたいやな」 最近まで、廉造はある任務で京都を離れていた。 今夜、二人は久し振りに再会したのだ。 「元気なわけないやないですか。俺、坊に会えんで病気になりそうやったんですよ?」 おどけた様子で廉造がそう言うと、勝呂は吹き出すように笑った。 大人になっても、二人は外見こそ大人になったものの、中身は学生時代のものと差ほど変わらなかった。 いわば子供の延長線上。だが、年をとるうちに段々と大人の事情というものが分かってきた。 勝呂は座主。明陀衆を率いるトップなのだ。当然、行動も制限された。 以前のように、頻繁に廉造に会う事はなくなった。 「んっ..、坊。...っ、好きです、好き..」 だから、こうしてたまに会って激しいキスを交わした。 会っていない間に溜まったこの感情を、そのまま相手にぶつけるのだ。 廉造は、熱に魘されたうわ言のように、何度も何度も「好きです」と言う。 それに応えるように、勝呂は廉造の口内を舌で犯した。 廉造は怖かったのだ。 愛する勝呂は男性で、それでいて座主という明陀のトップで。 自分とは明らかに違う身分で、その上同性。 当然、世間からは白い目で見られることは嫌というほど分かっている。 それでも、好きなのだ。離れたくないのだ。 報われない。そんな恋でも、激しい接吻をしている今だけを感じていたい。 二人の唇が離れる。 そして、二人は抱き合った。 廉造の腕が背中に触れるのを勝呂は感じながら、廉造の首筋に印をつける。 こんなに誰かを独占したいと思ったのは、勝呂にとって初めてだった。 目の前の男は強がるのが下手だった。 いつもヘラヘラとしているのは単なる強がりで、自分が傷付くのが怖かったからだと、勝呂は分かっていた。 そんな廉造の弱い部分を、勝呂は守りたかった。 廉造は、不意に笑いだした。 「坊...、今日は俺が壊れるぐらい抱いて」 「...急にどしたんや」 「別に...、坊ももう分かってはるんやろ?」 そう言うと、廉造は悲しそうに笑った。 そう。二人は分かっていた。 離れたくないと思えば思うほど、その反対の、言葉で言い表せないような何かが心の端に溜まっていくのだ。 廉造は、それに耐えられなかった。 「坊...。もう、これで終いにしよ」 ピリオド ( 悲劇だと思いたければ思えばいい ) |