[ 金造→柔造/あなたの傍にいるよ の続き ]





青い夜から時が経ち、俺は15歳、柔兄は20歳になった。



俺の柔兄への気持ちは、物心つく頃からはっきりしたものになっていった。

志摩家の跡取りとして、明陀を守るものとして、柔兄は歳を重ねるごとに大人びていった。

以前のように縁側で昼寝をしたり、ゆっくり語らい合う事もなくなった。

だから、少しでも柔兄との接点が欲しくて、俺は馬鹿の振りをするようになった。

少しでも柔兄の気を向かせるために。

ミュージシャンへの夢を諦め、なりたくない祓魔師を目指す事にしたのも、全て柔兄のため。



だが、俺は気付いていた。

どんなに俺が努力して柔兄に近付こうと、矛兄との思い出に勝つ事は出来ない。

柔兄の中に矛兄がいる限り、俺の想いは届く事はないのだ。

そう確信しても、やはり柔兄の事を諦める気持ちにはなれなかった。





ある蒸し暑い曇りの日の出来事。

その日は大掃除の日で、寺の中のものを一斉に整理するという大仕事の日だった。

俺はとりあえず近くにあったタンスから荷物を整理し始めた。

だが、俺が整理しているタンスは意外とものが多くて。



「金造〜、そっちの方大丈夫か〜?」



悪戦苦闘していると、後ろからにゅっと柔兄の首が伸びてくる。



「全然大丈夫やない、手伝うて〜」



「おう、ええで〜」



ラッキー。内心ガッツポーズを決める俺。

柔兄が俺の隣に座って、ものを漁り始める。

俺も作業に戻ると、懐かしいものを発見した。



「柔兄柔兄、ちょ、これ見てや」



アルバムを広げて見せれば、柔兄は「おぉ」と数回瞬きをしながらアルバムを覗き込む。

適当に開いたページは、ちょうど俺が幼い頃の写真だった。



「うわ、恥ずかし恥ずかし」



「金造、ちいと待ちぃ。...ほら、金造にもこないな時があったんやで?」



羞恥心から、ページを捲ろうとするが、柔兄は俺のページを捲る手を柔兄の手で制する。

ドクドク、と心拍数が上がる。

手と手が触れ合った箇所から、この鼓動が伝わらないか心配する程、自分の中に響く。

赤くなっているであろうその自分の顔を、柔兄にばれないように俯いた。

そんな必死になっている俺を、柔兄はいとも容易く見破る。



「...なんや。照れとんか」



「っ、柔兄の所為やろっ」



まったくその通りだ。

柔兄の所為でこんなにドキドキして、こんなに苦しんでいるのだから。

まったく、いい迷惑だ。

そっぽを向けば、そんな俺の様子を見兼ねたのか、柔兄は笑いながら「堪忍な、俺が悪かったわ」と俺の手を解放し、次のページを捲った。



「せや。皆柔兄が悪いんや。...せやけど、そこまで言うなら許したってもええけど...」



俺が冗談でそう言う。

が、柔兄の反応が返ってこない。

言い過ぎたか、と少し心の中で気落ちするも、恐る恐るといった様子で、横目で柔兄の様子を見遣る。



柔兄は、アルバムにくぎ付けになっていた。

ゆっくり、俺はアルバムに視線を戻す。

アルバムの写真に映っていたのは、幼い柔兄と、俺と、矛兄だった。



「柔、兄...?」



自分でも驚く程震えた声で、柔兄を呼ぶ。

すると、柔兄は我に返った様子で。



「..あ、ぁ...すまん。ボーっとしよったわ」



ハハハ、といつもの笑みを浮かべる柔兄。

柔兄をずっと見てきた俺は、その笑みは無理に笑っているものだと分かった。



「早う終わらせな。これが終わったら冷たい麦茶でも飲も」



そう言って、柔兄は再び作業に戻った。

俺は、そのアルバムを閉じて、作業に取り掛かった。



震えてしまって思うように動かない俺の手の所為で、作業は思うように進まなかった。









あなたの傍にいても

( 柔兄は、俺を見てくれない )







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