[ 金造×廉造/シリアス ]





「なあ、廉造」



ボーっとした様子で隣に腰掛けている兄に名前を呼ばれる。



「..何や、金兄」



返事を返すが、何か考えている様子で口を開かない。

不浄王の左目が略奪され、残された右目の警護の為、俺達候補生は京都へ来た。

今でも厳重警備が行われている。隣に座る兄は、他の人に代わってもらって今は休憩中らしい。

兄の横顔をこっそり伺う。

いつもは「廉造ォォォ!」と大きな声で自分の名を呼び喧嘩をふっかけてくるのだが、今回はそうじゃないらしい。

いつもと違う兄。....何だか気持ち悪い。



「.....お前は、この家に生まれてきて、えかったって思うか?」



しばらくの沈黙の後、ようやく口を開いた兄。

だが、その口から出た問いは意外なもので。



「.....何やそれ」



急に言われても困る。

そりゃ志摩家の末っ子として生まれてきて、坊や猫さん、祓魔塾で出会った奥村くんや奥村先生、杜山さんや出雲ちゃんに出会えて良かったと思っている。

だが、明陀の男として云々を幼い頃からずっと言われ続けてきた。

正直、明陀の男としてだとか、もちろん坊は守らなければならないと思っているが。

そういうのはあまりよく分からない。明陀の誇りだとか、そこら辺のもの。

ぐるぐると頭の中で思考を廻らせていると、ふとブッと馬鹿にしたような笑いが耳に入る。



「せやな、廉造には難し過ぎやな」



笑いの勢いは止まる事をしらない。金兄はそのまましばらく笑い続ける。

一生懸命考えとったのに..。じとりと横目で兄を睨む。



「...じゃあ、金兄はどうなんや」



「え?」



意外そうに、下を向いていた顔を上げて此方を見る。

するとまた、さっきの何かを考えている顔に戻って、顔を逸らす。

そのとき、俺は兄の考えている事が少しだけ分かった気がした。



「せやなあ..。明陀は俺の誇りやからなあ」



ぽつり、ぽつりと話しだす。

一言一言を噛みしめるように。



「...せやけど、もし俺が普通の家に生まれとったら、..今頃音楽に明け暮れとったんやろうなあって思う」



そう言って、遠い目をする。

そんな兄に、何と声をかけてやればいいのか分からなかった。

相当深刻そうな顔をしていたのか。兄は俺の顔を見るなり、「そんな変な顔すなや」と軽く俺の額を小突く。



「まあでも、何か生き甲斐ってもんを感じるし、やっぱこの家に生まれてきてえかったわ」



そう言って、笑いながらくしゃくしゃと俺の頭を荒々しく撫でる。



「....何か、今日の金兄変やで」



我慢できずそう言うと、一瞬動揺した表情を見せればすぐにさっきの笑みに戻って。



「変やと?この口が言うんか、この口が!」



そう言うと、俺の頬を引っ張る。

「いひゃいいひゃい」と痛みを訴えると、目の前の意地悪な兄はいつものように笑って、俺の頬を解放した。



「...俺も、この家に生まれてきてえかった。」



「...は?」



「まだよう分からんけど...」



まだ痛む自分の両頬に手をあてながら、少し気恥ずかしいと感じて視線を逸らす。

少し間をおいて、俺の頭に相手の手が伸びる。

また叩かれるのかと思って反射的に目を瞑るが、その手は優しく自分の頭に乗った。

不思議に思って目を開けて兄を見ようとすると、そうする前に自分の頭が相手の胸板に押しつけられる。



「....いつか、分かるときがくる」



そう、何処か悲しみを帯びた声で兄は言った。

俺は何も言えず、ただ兄の温もりを感じていた。



「...っと、そろそろ交代の時間や。ほなな」



そう言って、俺を解放し立ち上がる。

いつもの笑みを見せて、兄はその場から立ち去った。

俺は、しばらくその場から動けなかった。



その数時間後、不浄王が復活し、金兄は不浄王討伐へと向かった。







いつか、

( やっぱ金兄の考えとる事、よう分からんわ )















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