[ 勝呂×廉造/真夏の恐怖 ]





時刻は夜の0時。日付が変わった。

大きな欠伸をしながら開いていた漫画を閉じる。

そろそろ寝ないと、明日の授業は寝て過ごす事になるかもしれない。

そう思いながら、眠たい目を擦って就寝の準備をする。

準備が整い、さあ寝ようと布団を捲ったそのとき。



「ぎゃあああぁあ!」



そこにはカサカサと蠢く虫、ゴキブリがいたのだ。

情けない悲鳴だと自覚しているのだが、これは叫ばずにはいられない。

とにかく、この生物から逃げないと。

そう思って、部屋の入口の方向へじりじりと後退りする。



下手に振動与えたらアカン。



慎重に、ゴキブリから遠ざかる俺。あぁ、何で俺がこんな目に遭わなアカンのや。

そうしているうちに、黒々としたその虫はモゾモゾと動き始めた。

暗いところが好きなのか、電気が点いていない部屋の入口、つまり俺の方にカサカサとやって来た。



「ひいっ、」



思わず悲鳴が漏れる。

もう振動なんてお構いなしにドタドタと部屋の入口に向かって後退りする。

だが、どうやら俺の後退る速度より目の前の生物が此方にやって来る速度の方が速かったらしく、もうすぐそこまで奴は迫って来た。

あと少し、というところで俺の爪先に届く...、そのとき。



「何があったんや、志摩」



後ろを振り向くと、坊の姿が。



「ぼ、坊...!こ、これ、どうにかして下さいっ、」



震える指で目の前の生物を指差せば、坊は拍子抜けしたかの様にガクリと肩を落とした。



「...しゃあないな」



坊は呆れた声色でそう言うと、近くに重ねてあった雑誌を手に取ると、それを棒の様に丸め始めた。



「坊...、...っ早く」



震える声で坊を急かす。

ちなみに坊が丸めている雑誌は今月発売された、水着を着た女の子が表紙を飾っているものだ。



あぁ、アレ、可愛い水着の女の子がぎょうさんおって気に入っとったんやけどなあ...。



なんて、悠長に考えている場合ではない。

目の前の小さな天敵は、もうすぐそこまで来ているのだ。



「そう急かすなや。...よっしゃ」



坊が雑誌を丸め終わった様だ。

坊が此方に歩み寄って、棒状になってしまった俺のお気に入りの雑誌を構える。

少し間を置けば、坊は素早く奴を仕留めた。



「...はぁぁ。坊、助かりましたわ」



力が抜けて、その場にへたり込む。



「...ったく、心配させんなや」



坊がそうブツブツ呟きながら、さっきまで気持ち悪い触角をピクピク動かしていた奴の後処理をする。

そんな坊の背中を見て、ほっと息をつく。



「........よっしゃ、これで大丈夫やろ」



後処理が終わったらしく、俺と向き合ってそう言う。



「ほんま助かりましたわ。またよろしゅうお願いします」



へらり、と締りの悪い笑みを浮かべれば、坊は大きな溜息を一つついて、「おやすみ」と俺の部屋から出ていった。

さあ寝ようと布団に入ろうとしたとき、ある重大な事に思い出してしまった。













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