凡人 | ナノ
再会




「あー…人ごみって疲れるーっ」




両手をあげ、軽く背伸びをする。私が今いるのは池袋。
言わずと知れたこの場所は、やはり人口密度が半端じゃない。

私…鈴風明利は今日からこの街で生活することになったのです。
もともと田舎者で、都会に縁はなかったんだけど、一人暮らしっていうのも悪くないかな…と考えてこの地にやってきたわけで。




「会者定離、心機一転、頑張るぞーっ!!」




慣れない四字熟語を並べ立て、再度気合いを入れる明利。
そこでドンと左肩に衝撃がはしり、少しよろける。




「あ、ごめんなさいっ!!」




道路の真ん中で立ち止まってしまった自分はかなり邪魔だった、と今更ながらに後悔をする。
慌ててぶつかった相手に頭を下げて謝ると、目の前にいた男はトントンと私の肩を叩いた。
それにつられて顔をあげると、その男は笑みを含んでこちらをみた。




「いいよ、気にしなくて」




あれ…?
この人、どこかで見たことあるような気が…。
誰、だっけ?ええと、確か……




「…もしかして、折原臨也さんですか?情報屋の」
「そうだけど、前に会ったことあったっけ?」




目の前の明利をじっと見据えながら臨也はあごに手をあてて、思考をめぐらせているようだった。
臨也は興味のない人間については会ったその日に忘れてしまうくらいだ。
見た目からしていかにも平凡な彼女を記憶してはいなかった。

――まあ、そんなに話したわけでもないしなぁ…

まず、私が特徴的ってわけじゃないしね。
そう考え、自分に対して薄笑いを浮かべた。




「私は鈴風明利です」
「…明利?…ああ、いたな…。うん、会ったことあるね、君と」




“明利”という名前を聞いて臨也は何か思い当たるところがあったのか、そうだそうだと私に調子を合わせるように頷いた。




「…なんか、悔しいんですけどっ!!」




いかにも人のことを小馬鹿にしたような有り様に、明利はぐっと拳を握りしめながら小声で愚痴をもらした。




「なんか言った?」
「いえ、なにも」




知られてたまるかと、全く動じる様子を見せずに首を横にふり、否定した。
そして、くるりと臨也とは反対の方向に体を向け、一度だけ振り返る。




「では、失礼します」




すっと一歩踏み出すと同時に臨也に右手首をつかまれた。
そのまま意地で進んでやろうかとも思ったが、相手の用件を聞かないことには始まらないと思い直し、臨也に向かって問い聞いた。




「なんですか?」
「…うちに来ない?」
「……はぁ?」




つなぐココロ


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