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僕らの時間!




ガチャリ、と無機質な扉が重く開かれる音が耳に飛び込んできた。
“幽だ!”そう判断した私はようやく会うことの出来る嬉しさを抱え慌てて玄関へと出迎える。



「おかえ……」



おかえり、と言おうとした矢先、目に飛び込んできたのは厚手のコートとサングラス、帽子を着用し大量の紙袋を提げている幽だった。
幽ともなればこのくらいのチョコレートは当たり前の量なのかもしれないが、やはりその光景を目の当たりにすると上手く反応することができない。



「さすが…俳優……」



嫌味だと受け取られるかもしれないが、私なりに感心と尊敬を込めたセリフが思わず口から零れる。
一方のそれを貰った本人は何食わぬ顔で呆然と玄関先で立っておりバレンタインなどといった行事にはまったく興味がないように思えた。



「と、とりあえず上がって! あ、夕飯でも食べてく?」
「……なまえからは?」



既に作り終えている夕飯を温めようとエプロンの紐を硬く結びなおしてキッチンへと向かおうとした時だった。
幽がようやく開いた口からは興味のないようにすら感じさせたバレンタインのことについて匂わせる発言がなされた。
私はピタリと足を止め顔だけを幽の方に向け、手に下げられた紙袋を指差しながらわざとらしくはにかんだ。



「それだけ貰ってるのにどれだけ食べるつもりなんだ? 太るぞっ!」
「…君から貰えるんなら、特別だよ」



上手くかわすはずだったものも、幽相手ではどうにもならない。
いつもそうだ。
本人にその気はなくとも、ペースを奪われ乱される。
そして、気づいたときにはこっちが幽のペースにはまっていく。



「…ずるい。幽、いつもずるい」
「なんのこと?」



天然なのか、計算なのか。
定かではない部分は多いけれど、私はきっとそんな彼が好きなんだろう。
画面の中とも雑誌の中とも違う、私の知る彼の一面。



「…気になるならチョコ以外でもいいよ?」
「でもチョコ以外って何あげれば…――」



床に視線を落としていると急に暗い影に包まれた。
ふっと顔を上に向けるとついさっきまで玄関にいた幽が靴を脱ぎ、ここまで上がってきていた。
そしてふと視線を合わせるのとほぼ同時、何かを考えるまもなく幽の唇が私のそれに押し当てられた。



「もっと……甘いものでもいいよ?」



そんな爆弾発言と共にとても柔らかな笑みを浮かべて。




浮かべる笑みは本物
(も、もっとってなに…?)
(言わなくちゃ分からない? それとも…教えてほしい?)

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