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年に一度の誘惑




いつもの仕事場にいつもの二人、最高と秋人。
並ぶ机とそこに散らかるたくさんの資料は既に見慣れた、当たり前の光景になりつつある。

真城最高(あだ名をサイコーと言う)は、この部屋を一望できる定位置となった机上でいつもとなんら変わりなく、真剣な表情で紙にペンをはしらせていた。


「なあ、サイコー」
「ん?」


その最高の作業を近くでじっくりと観察しているのが高木秋人(あだ名をシュージンと言う)。
主にネームを担当している、最高にとっては出来のいい相方であるその少年は自分に与えられている仕事には手をつけず、じっと最高のことを見つめていた。

最高は秋人の呼びかけに短く返事をし、わずかに視線を秋人のほうに向けた。
それを確認した秋人は軽く微笑み話を始めた。


「今日、ハロウィンだし……たまにはパーッとやろうぜ!」
「……何言ってんだよ。まずこれを片付けるのが先決だろ?」
「いいじゃん! 一日くらい休んだってそんな……」
「シュージンが良くても俺が良くないの!」


正直なところ、秋人の担当している仕事より最高の担当しているもののほうが時間がかかる。
秋人がいてこそ成り立つ関係ではあるが、ここで余計なことに時間を費やしてしまえば後々自分にかかる負担も大きい。
それを理解しているからこそ、最高はそう言っているのだ。


「大丈夫だって! いざとなったら俺も手伝うからさ!」
「なにもそこまでする必要ないだろ? だいたい、たかがハロウィンだし」


最高は作業する手を一度だけ止め秋人の顔を見た。
行事に関してまったく興味がないわけではない。
だが、ハロウィンには決まってすることというものが存在しない。
だからこそ、今日をいつもと変わりのない平日として乗り切り、今書き上げているものを完成に近づけたいというのが最高なりの考え方だった。


「心配すんな! 今回けっこう進んでるじゃん!!」
「いや……そうかもしれないけど」


秋人の強行的な態度に思うように逆らえないのか、最高は苦笑を交えながら煮え切らない態度でいる。
自分なりの意思は持ち合わせているが、秋人相手だとそれを思うように発揮できないのだ。
それを知ってか知らずか、秋人はぐいぐいと押しを強めてくる。


「……はぁ。負けた」
「これから先、おそらく俺は一歩も引かない。くだらない対話をするくらいなら楽しんだほうがまし、ってところか?」
「まぁな」


今日も頭のよさは健全か。
内心でそんなことを考えながら最高は椅子をわずかに右によせ秋人のほうへと近づけた。
既に近い距離ではあったけれど。


「……そこでいいの?」
「これ以上どうするんだよ」
「ん」

秋人は自分の太ももの位置を指でさしにこりと微笑む。
それはおそらくここに来いという指示だろう。
最高は顔をわずかにしかめたが反論する気も起きなかったのだろう。
席を立った最高はそれにおとなしく従った。


「サイコーってさ、可愛いよな」
「うっさい」


秋人はからかいの眼差しでこちらを見てくる。
うっすらと紅く染まる頬を見られてはまた秋人にからかわれる。
それを隠すように最高はうつむきながら唇をかみ締めた。




年に一度の誘惑

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