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苦いお菓子か楽しい悪戯か




「静雄! 今日って何の日?」


ごろりとソファに寝転ぶ静雄に向かってはしゃぐ気持ちを少しだけ抑えて問う。

正直なところ、私ももう少し幼かった頃にはハロウィンの存在なんて知らなかった。
ここ数年、いろいろな番組でとりあげられたり、さまざまな期間限定商品のお菓子が販売されるようになってわかったもの。
楽しいことはひとつでも多いほうがいい。
そんなお気楽主義者ともとれる私の思考にはぴったりの行事だ。
どうせなら、静雄と一緒に今日を楽しみたいと思い、冒頭の台詞に至るわけだが……


「今日? ……お前が楽しみにしてるテレビでもやんのか?」
「いや……ないことはないかもしれないけど、ちょっと違う」


知らないのか。
まったく予想にしなかったことではない。
もしかしたら、という程度では考えていたがまさか本当に知らないとは……
知らないとなるとなにもできない。
でも、なにもしなければ結局いつもと変わらないということになる。
それじゃあなにも意味がない。


「忘れちゃったの? 今日がなんの日か」
「……何の日? さあ、知らねぇな」


真剣に考えてくれてはいるのだろう。
静雄は顎下に手をあてて何かを思い出そうとしてくれている。
あまり考えさせるのもさすがに悪いかもしれない。
正解を言って静雄がなにをしてくれるのかも気になるところだ。


「今日ね、ハロウィンなんだよ」
「……ああ、そうだったっけか?」
「そうだったっけか……って。はい、トリックオアトリート」


ハロウィン何ぞまったく興味のなさそうな態度でいる静雄にこんなことを聞くのもどうかとは思ったが、お菓子を持っていないならいないで静雄に悪戯できると考えるとそれはそれで楽しそうな気がしてきた。
トリックオアトリートの意味くらいなら、今日という日に疎い静雄でも耳にしたことがあるだろうから。
さて、なにをしてもらおう。
せっかくの行事なのだから、どうせならかっこよく仮装でもしてもらいたいところだ。


「なあ、なまえ。ハロウィンって楽しいか?」
「それなりには! だってお菓子もらえるし!」
「相変わらず甘いもん好きだよな」


あきれ気味に笑う静雄。
二人でいるときには多く見せてくれるその表情に一瞬どきりと来たが、今はそんなこと考えている場合ではない。
お菓子をもらうか仮装をしてもらうか決まらないと私も落ち着いてなんかいられない。


「んなもんねぇよ」
「じゃあ悪戯決定ね」
「……悪戯、ね……」


いつのまに、というべきか。
ついさっきまでは人ひとり分くらいのスペースを空けて座っていたはずの私たち。
両手首を掴まれたかと思うと、ぎしり、とソファのスプリングが軋む音が耳元で聞こえてきた。
視線の先を真正面に移すとそこには一面真っ白な天井と、私を現在の状態にしたその人が、いつもとさほど変わらない表情で私を見下ろしている。


「……なに、お前そんなに俺に悪戯してほしいの?」
「――は? い、いや……ちがっ」


どれだけ自分の都合のいいように解釈するのだろうか。
私は静雄がお菓子を持っていなかった場合、静雄に悪戯しようとしていたのに何故今お菓子を持っている私が静雄に悪戯されなければならないのだろう。


「お、お菓子ならある……から」
「あ? いらねぇよ、んな甘ったるいもん」
「いらないって……だってハロウィンは……」
「なまえに悪戯できるのは俺の特権だ。ハロウィンだかなんだか知らねぇが、んなもん関係ねぇ」



苦いお菓子か楽しい悪戯か
(静雄のばーか、)
(なんだよ、まだ足りねーのか?)
(……もうけっこうです)




お題!待ってて神さま

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