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星降る夜空に願いをかけて



バタバタと誰かが駆けてくる音が聞こえる。
時刻は午後九時。
この時間帯に客がくることは臨也にとってめずらしいことではない。
だいたいの客は何か面白いことに関わっている(つまり興味のある)奴らだ。

奴らにはそれぞれ他人に明かすことのできない秘密を持っている。
こうも目立つように家に来ることができるのはあいつしかいない。


「臨也っ!!!」


――ほら、来た。
みょうじなまえ。
おてんばでその年に似合わず間の抜けた失敗が多い。つまりただのドジっ子だ。
そんな少女は右手に小さな笹の木、左手には短冊と油性ペンを持って部屋に入ってきた。


「……願掛けしよう、とか言うつもり?」
「うんっ!」


子供染みたことをするのはなまえがまだ学生だからなのだろうか。
普段なら当てにもならないことに付き合うことはしない臨也だが、今日という日のために彼女がここまで用意してくれたのだ。
つきあってやらないのも悪いだろう。


「はあ、仕方ないなぁ……」


椅子の上で頬杖をついたまま、空いているほうの手をなまえの前に差し出す。
なまえの持つ短冊とペンを受け取り、何を書こうかと考えてみる。
その間、なまえは既に何か願い事の書いてある短冊を笹にくくりつけていた。


「……まさか、それ全部キミ一人で書いたの?」
「違う違う。 私が事前に頼んで正臣とか杏里とか帝人とか、いろんな人に書いてもらったの」


普段はこんなにしっかりと準備をできる子ではないのにこういう行事に関しては用意周到だ。


「で、臨也書けた?」


早くもすべてを飾りつけてしまったなまえは臨也の短冊はまだかと訊ねる。
そういえば、彼女は何か願い事を書いたのだろうか。
起案者が書かない…ということはまずないだろう。
ならばいったい、どんな願い事を書いたのだろうか。


「……そういうなまえは何をお願いしたのかな?」
「私? 私はね……秘密!」


口元に人差し指を添えながら心底楽しそうに微笑んだ。
だが、秘密と言われればますます気になってしまうのが人間という生き物だ。
それを知っていてやったのなら性質(たち)が悪いがなまえはそこまで頭の回転がいい子ではない。


「まあ、聞かなくてもだいたい予想はつくけどね。 どうせ来年も俺と一緒にいられますように……とか書いたんでしょ?」
「なっ、なんでわかったの……!?」


馬鹿め。
“さあ、どうだろうね?”
と返せばバレないものを進んで自滅行為に入るとは。
もちろん、臨也はなまえが書いた短冊を見ていない。
普通ならそう高い確率では短冊に書いた願いを当てることはできないが、臨也がなまえの書いた願い事を当てることができたのは“予想”というよりはそうであってほしいというただの“願い”だった。


「っていうか、それ…書く意味あったの?」
「なんで……?」
「だって、俺たちが同じ気持ちならべつに願掛けしなくても叶うでしょ、それ」


ベランダに出ているなまえの近くまで歩み寄り、その隣に腰を下ろした臨也。
なまえは首を傾げながら最後の一枚となった臨也の書いた短冊を飾りつける。


「臨也って私のこと好きだったっけ……?」
「好きでもない子と付き合わない」


そこまでお人好しじゃないよ、俺は。と言いながら臨也は手の甲でなまえの頭を軽く小突いた。
何日付き合おうが何ヶ月付き合おうがなまえは付き合っているという実感が変わらず薄いから困る。
――ホント、少しは自覚してもらわないと困るんだよねぇ
臨也はなまえを手招きすると近づいてきた彼女のほうへさらに顔をよせ、口角を上げた。

満点に広がる星たちのもとで二人は静かに口付けを交わす――





恋の架け橋
(そういえば臨也、短冊になんて書いたの?)
(見てみれば?)
(……、 ……っ!?)

臨也が何を書いたのかは二人だけの秘密なのです。


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