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感情スパイラル




「なまえ。今日は何日? 何の日?」


夕飯の買い出しを終え二人でスーパーの袋を持ちながら並んで帰路につく。
急に何の話かと顔を上げれば、新羅がどことなく浮かれた表情で私の顔を覗き込んできた。
彼の至って単純な感情表現になまえは今日がどんな日であったのだろうかと頭を捻ってみるがどうも心当たりがなかった。


「2月14日だけど…。なにかの記念日、だっけ?」


申し訳なさそうな表情で首を傾げながら新羅に目配せをする。
新羅は驚いたような表情を浮かべ、念を押してか再度なまえに問う。


「それ、本気?」
「うん。…ごめんね」


反省のような困惑の色が混ざったような声で謝罪するなまえに新羅は彼女が本当に今日が何であるか覚えていないことを察した。
内心、がっかりはするもののなまえに余計な負担をかけてはならないと落胆する気持ちを自分の内側にしまい込み、あいている自分の右手で彼女の頭を優しくなでた。


「いいよ。たいしたことはないから、なまえは気にしないで」


新羅は決してなまえからなにかプレゼントをもらいたいわけではない。
今日がバレンタインだということにあやかり、彼女が自分に何か心の篭ったプレゼントをしてくれるのではないかと考えたのだが…――それは結局自分のエゴを押し付けているだけだと気づき、思考をやめる。
どんな形であれ、最後は彼女が側に居てくれさえすれば構わない。そんな結論にたどり着くのだから考えるだけ無駄だ。


「あ。そうだ、新羅! 私ちょっとだけ寄り道して帰るね!」
「なら僕も…」
「新羅はダメ! あんまり遅いとセルティも心配するから、ね?」


そんなことを言われてしまっては反論する言葉も見つからず新羅は渋々ながらに わかったよ、と返答する。
なまえの持つ小さなスーパーの袋をもう片方の手に預かると新羅はまるで母親のように彼女に規約を提示した。


「くれぐれも遅くならないように。なにかあれば連絡、ね?」
「…過保護」
「君相手だから仕方ない」


にこにこと微笑む新羅に手を振り、なまえは来た道を戻るように歩いていく。
新羅の両手は荷物で塞がっているため手を振る代わりにその場から彼女の背中が見えなくなるまで見つめていた。

彼女を見送り家に着く。
鍵を開けて中へ入り暗くなった室内の電気をつける。
セルティは運び屋の仕事に出たままなのかどうやらまだ帰ってきてはいないようだ。
念のためあたりを見やるも気配もないためやはりいないのだろう。
そんな中、ふと目にひとつの箱が留まる。
机上に置かれた綺麗にラッピングされた箱。
出かける時にはなかったはずのその箱を手に取り、新羅はある事に気づく。


「――…なんで素直に渡せないかな」


その箱をぎゅっと握り新羅は嬉しそうに目を細めた。




感情スパイラル
(ぐるぐるまわる、感情表現)



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