超能力 | ナノ
情報屋 折原臨也
「ねっ杏里!今度買い物付き合ってくんない…?」
「いいですよ」
この前と同じように四人で帰り道を歩く。
帝人と正臣はいつものごとくナンパについて熱く議論しているようだ。
無論、熱く語っているのは正臣のほうで帝人はただその話を聞き流しているだけなのだが。
有紗と杏里は次の休みについて話をしながら、歩みを進めていく。
ふと、前方にいた二人――帝人と正臣が足を止めたので後方の二人、有紗と杏里も足を止める。
何事かと思い、正臣と帝人の顔を交互に見つめると二人ともなにやら呆然とした表情で前方にいる一人の青年を眺めていた。
その前方にいる青年はよく整った顔立ちをしていて、私たちにむかってにこやかに微笑んでいる。
そして有紗の視線に気づいたのか、こちらに顔をむけ再び笑顔を見せた。
「小見川有紗ちゃん…かな?」
名乗らずとも知っているといった口調で有紗の名前を口にしながら、その男は有紗の前まで歩みよった。
わけがわからず小首を傾げていると、男は何を思ったのか自ら名乗りだした。
「俺は折原臨也。新宿で情報屋をしているんだ」
――折原臨也…。
有紗には聞き覚えのある名前だった。
以前新羅が言っていた“私に会いたい”などと変わったことを言う人物。
結局くわしいことは何ひとつきいていない私はそれしか記憶していないわけだが、今はそれで十分だろう。
「…話はなんとなく新羅さんから聞いています」
「あっそう。なら話は早いね」
「それで、一体どういったつもりでしょうか?」
「そうだね…しいて言うなら…。生態系観察、かな?」
「悪趣味な…」
わざとらしく大げさにため息をつく私をよそに、臨也は“それ、ほめ言葉だから”なんてのんきに言ってやがる。
そこでふと、私はある言葉を思い出す。
“もしかしたら…居を移してもらうしかないかもしれない…”
以前、新羅が呟いた意味深そうな言葉。
そのセリフにもしかしたらこの男が関わっているのではないかと、有紗は確信に近いなにかを感じていた。
もちろん、根拠は存在せずあくまで推論になるわけだが。
「単刀直入に聞こう。君は何者かな?」
「私は私ですが?」
「…口を割るつもりはない?それもそうか、俺たち初対面だもんね。なんならどう?これから仲良くしてみない?」
どうしてこの男はいちいち遠回しにことを伝えようとするのだろうか。
本当の意味を伏せるため?
相手の警戒心を解くため?
それが無駄だとどうして気がつかない?
私はそんな簡単な嘘に引っかかるほど、馬鹿な人間ではないということをこの男ならきっと、わかっているはずなのに――
警戒心を保ちながら有紗は自分の身を一歩ひいた。
だが、それに反して臨也が一歩前に出てくる。
ここは逃げるべきところなのだが、有紗はこの男の脚力にかなう自信がなかった。
――走って逃げる、なんて…無駄な抵抗
だったら自分はどうすべきか。
足の速さはかなわない。
まともに戦って勝てるはずもない。
まして、男女の差はそうやすやすとした努力で埋まるはずがない。
だから有紗は考えた。
そうだ、あれをやろう。
それしか手段がない。
まともに戦って勝てないのなら、まともに戦う必要などないのだ。
なにせ、この街はもとから狂っているのだから。
「…仕方ないっ!!!」
この男の前で、というのが気に食わないが、そんなことを気にしていたらきりがない。
多少のことは犠牲にするしかない。
そう自分に言い聞かせると、有紗は自分のかばんに入っていたどこにでもありそうな眼鏡を取り出し、それをかける。
そしてどこからかカチカチ、と小さな音が聞こえてきたかと思うと、臨也の意志に反して彼の体の動きが完全に止まった。
「……?」
――おかしいな、なにもしてないのに…
自分の体の異変に気づく臨也だが、どうあがこうと動けない。
臨也の注意が自分から完全に逸れたところを見計らい、有紗は今まで一緒に帰っていた仲間を置き去りにして一目散に駆け出した。
帝人たちはそんな有紗を引き止めるわけでもなく、現状を飲み込みきれないでいる。
一方の臨也はいまだににこにこしながら、走り去る有紗の後ろ姿を見つめていた。
「…予想以上だ」
久しぶりに面白いものを見た、といったところだろうか。
臨也は表情を不敵な笑みに変える。
――欲しいものは必ず手に入れる。
それがこの男のポリシーであることは言うまでもない。
つなぐココロ
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