記憶に苛まれる燐

・修道院で一緒に暮らしていた義姉
・正十字学園入学後一週間くらい
・燐と雪男の隣部屋に居を構えてます




きし、とベッドのスプリングが軋む感覚で目が醒めた。
虚ろげに持ち上げた瞼で二、三回瞬きをして視界を下へとずらせば、其処に在ったのは寝癖の付いた黒髪と其の旋風。
そして掛け布団の隙間からはみ出ている先端がふっくらと柔らかい毛で覆われている高位の悪魔族特有の尻尾。


「…燐?」


隣の部屋の対面して置かれているベッドで雪男と其々に寝ているのではなかったのだろうか。
もぞり、と無理矢理掛け布団の隙間から身体を更にこっちに捩じ込んで来た弟分に悩む暇も無く。
致し方無く軽く掛け布団を捲り上げて迎え入れる体勢を取ってやる。
すれば、其れを待ち望んで居たかの様に燐はもぞもぞと掛け布団の中に完全に身を収めたかと思うと、私の肩口に顔を埋めながら全身でしがみついて来た。

昔から此の癖だけは変わらないったら。
雪男も同じ癖を持ってるけども。


「燐、どうしたの」

「………」

「…又、怖い夢でも見たんでしょ」

「……、……」


無言で強くなるしがみ付く力。
燐はお父さんの死ぬ姿を一番間近で見てしまった唯一人の子。
彼は昔から気は強かったが、少々情緒不安定な部分が有る。
きっと、其の光景が網膜の裏に焼き付いて離れないのだろう。

───反抗期ではあったけど、内心ではお父さんを尊敬していた燐には酷過ぎた。

縋り付いて来る義弟の頭を撫でて遣りながら、間近に見える米神に唇を押し付ける。


「燐」

「…あね、き…」

「……図体ばかりでかく成りやがって…」


くす、と小さく笑って遣ると其の扱いが気に入らなかったらしい燐が恨めしげに呻く。

お父さんの死に様を思い出には出来無い光景だろうけど、其れを糧に生きてくれれば良い。
其の死に様よりも、お父さんと過ごした時間はもっと長く果てしないモノだった筈だから。


今日も共に眠りに着いてあげよう。
君には明日も元気に笑っていて欲しい。



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