挙動不審な息子さん

「あ、子猫丸達や」


柔造にフロントチョークを仕掛けていると、縁側から見える出張所の庭を通り掛かる末っ子組を私は発見した。
庭に植えられた庭木の間を縫う様に…まるで誰にも見付からない様にとこそこそと進んで行く学ラン姿の三人組に私は眼をぱちくりと瞬かせる。
この出張所は柔造の父で在る志摩八百造さんが所長を勤めている為か、其の関係者であり尚且つ許可が正式に下りていれば祓魔師で無くとも顔パスで出張所を出入り出来るのだが。

…隠れる様にこそこそと行きはる姿は、俺達やましい事をしてますと体言しとる様なもんどすえ、坊。
せやかて、自分ら気付かれてへんと思うとるんやろか。

幾ら庭木が在るとは言え、其処まで植えられている本数は多くない出張所の庭。
こそこそと進んでいるつもりらしいが、残念ながら丸見えだ。
それは本人達も分かっているのか、此方に気付いたらしい柔造の弟である廉ちゃんが庭木の影から満面の笑みを浮かべて這い出てくる。(柔造をからかいに来たとか、多分そんな所だろう。)
それをぎょっと眼を見開いた子猫丸が慌てて廉ちゃんを止めようと手を伸ばすが、既に…いや、大分遅い。


「猫乃、腕!こんなけったいな姿、廉造に見られたら…」

「残念やな柔兄、もう見てんでぇ」

「うげっ!」


何時もからかわれてばかりの弟からの、ささやかな復讐劇。
それに水を差しては廉ちゃんに悪いだろうと直ぐに柔造に仕掛けていたフロントチョークを解いてやると、志摩家お馴染みの兄弟喧嘩(軽度バージョン)が始まった。

嗚呼、仲の宜しい事で何よりですわ。
志摩家の男衆は志摩家の女衆に弱いと再確認させられる会話を繰り広げてはったけども。

さて、と志摩家の坊主二人は放って置いて、私は自身の実弟であり我が家の跡継ぎである子猫丸と、明陀宗の座主と言う気高い血統書付きの少年、坊に目線を投げ遣る。
子猫丸は引き攣った顔で冷や汗をとめどなく滴らせ、坊は私と目線を合わせようとせずに明後日の方に顔を背ける。
顔を背けるのは個人の自由だろうが、問題は───其の坊の風体だ。
学ランの上着を頭から被り、まるで拘束された犯人の如く顔を見せない様にしているのがありありと分かる。


「坊?」

「じ、柔造…」


志摩家の兄弟喧嘩はあっさりと終焉を迎えたのか、あっけらかんとした顔の柔造が坊の名前を呼ぶと、坊は明らかに強張った声を上げた。
私に見付かった時点でもう言い逃れも何も無いのだが。


「あのー、つかぬ事お聞きしても構へんでっしゃろか」


柔造が苦笑を漏らしつつ問い掛ければ気の毒なくらい揺れる坊の肩、その傍らでわたわたと慌てる子猫丸。
其のあからさまさが余計に可哀相だと思いつつも、柔造は口を再び開いた。


「…何してきはったんですか」

「………い、いや…あんな、柔造…」

「ぼ、坊…やっぱり白状した方が良えんやないでしょうか…」

「せやせや。白状した方がええどすえ、坊」

「志摩ぁ!御前どっちの味方やぁ!」


廉ちゃんの適当な言い回しについつい乗ってしまったらしい坊が勢い良く身体を起き上がらせると、其の反動で頭から落ちる学ランの上着。
坊がしまった、と顔を青ざめさせるのも程々に、私は庭木の影に居る二人を手招きする。


「ぼーん?こねこまるー?」

「………」

「………」


其れは其れは、甘ったるい声で。




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