小説 | ナノ
西瓜喰いに来るか?
何アルか?すいかって。
果物、近藤さんが貰ってきてよぉ。
ふーん、旨いのカ?
まあ、甘いわな。
ふーん。
そんで来んの?来ねーの?
………行く





すい夏






吊された風鈴が音を立てて揺れた。
屋根で日陰になった縁側は板が冷えていて気持ちよくて、神楽はごろりと横になった。
ひんやりと火照った肌の体温が冷やされていく。
反対に外に突き出した足はじんじんと焼けるように熱いけどそれもなんだか心地いい。
あまりの心地の良さに神楽の目蓋は重くなっていた。

ごん、しかしそのまま夢の世界へと行くことは叶わなかった。
地味に痛む後頭部を抑えながら、神楽は見上げるようにして沖田を睨みつけた。


「水虫足で蹴るんじゃねーアル、移るダロ」

「それは旦那だろィ、俺は水虫じゃねー」

「よく言うネ、暑苦しそうなソックス年中履いてるくせに」


沖田は言い返そうと思ったが、余計暑くなるだけだと開いた口をぐっと閉じた。
言い返さないのをつまらなく思ったのか、神楽はめんどくさそうに横になった体を起こした。すると目の前に何かを差し出された。


「ほら」


お盆の上には、氷の入った麦茶が二つと大きな皿に赤い身の果物が乗っていた。


「……すいか?」

「西瓜」


神楽はゆっくりと西瓜に手を伸ばした。

(沖田の言った通り……)

身は綺麗な赤色で表面についた水分できらきら光っていた。
その身に埋まった黒い種が所々顔をのぞかせている。


「感動に浸ってないで早く取れィ、腕痛いんだから」


沖田のイラついた声が頭上から降り注ぐ。そんな沖田を今一度睨みつけてから、西瓜をお盆から取り上げた。
沖田は神楽の横にためらいもせず腰を下ろす。二人の間にはお盆が置かれた。


「………どした?食わねーの」

「だって初めてアル」

「……毒味しろと?」


神楽は黙ってしまった。沖田ははぁと息を吐いて、皿の上の西瓜一切れを取るとがぶりとかぶりついた。
口の端を赤い汁が垂れる。沖田はそれを舌で救った。
神楽はじっとその様子を見ていた。


「………」

「んだよ、喰ったぜィ」

「旨いアルか?」

「知るかィ、自分で確かめろ」
沖田はまた西瓜にかぶりつく。
何も言わないが神楽にはその姿がひどくおいしそうに見えた。
自分の手元にある西瓜に視線を落とす。
食べてほしそうに表面が輝いている。
そっと西瓜に唇をつけ、舌でぺろりと舐めた。
沖田はその様子を横目で眺めていた。


「…そんなんで味分かるのかィ」

「…ちょっと甘いナ」

「不味くねーから喰えよ、せっかく冷やしてたのに温くなる」


神楽はまた西瓜をじっと眺めたあと、やっと端を少しかじった。
口の中で身を転がし、その味を確かめる。そして喉を運んだ。


「不味くないアル」
「あんまり味がしないネ」
「………でも嫌いじゃない」


そういうと今度は大きな口を開けて身を頬張った。
口の中いっぱい西瓜になった。
みずみずしさの中にほんのり甘味がした。
美味しくて頬が緩んだ。


「銀ちゃんとか食べたことあるカナ?なかったら自慢してやるネ!」

「あるだろィ、江戸に住んでりゃ誰だって」

「みんな暑くなるとすいか食べるアルか?」

「それが江戸っ子の夏の過ごし方でさァ」

「贅沢アルな、地球人は」


ぷっと沖田が庭に種を飛ばした。それを見た神楽も真似をした。口の中で種をセッティングして勢い良く吐く。しかし沖田より手前で種は落ちてしまった。
思わず沖田を見ると勝ち誇った笑みを見せていた。


「下手くそ」

「うるさい、手ェ抜いただけアル」

神楽はガツガツと頬張っては種を飛ばした。しかし何度やっても沖田が最初に飛ばした種を越すことはできない。
沖田はムキになる神楽を見て、彼女の横で声を押し殺して笑った。



「あれ」

悪戦苦闘している内に食べる実がいつの間にか無くなってしまった。
結局沢山あった種は一つも沖田のより遠くに行くことはなかった。
西瓜は美味しかったが悔しさのあまり神楽の気分は優れない。

「まあ、俺に勝とうなんぞ一億万年早ェてこったぁ」


既に食べ終えていた沖田は、麦茶は悠々と飲んでいた。
そんな彼を神楽はありったけの怒気を含んだ目で睨むが、まったく効き目がない。


「あーあ、チャイナの所為で庭が種だらけじゃねェか」

「フンだ、その内西瓜が育ったら毎日食いに来てやるもんネ」

神楽も麦茶を一気に飲み干した。中身はみるみるうちに喉に消えていった。


「毎日、か」

「何だヨ、不服アルか」

「いやー、そしたらてめェを呼ぶ手間が省けるからラッキーだなと思ってよぉ」


沖田の横顔があまりに機嫌良さそう緩んでいた。先程の沖田の何気ない呟きに不覚にも胸がどきっと疼いた。

この男は果たして天然なのかはたまた狙っているのか。
どっちにしろ、神楽は西瓜のように真っ赤に染まった顔を隠すため、調子に乗るなと殴っておくことにした。
照れ隠し故大目に見てほしい。

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