小説 | ナノ
流星群アル、今日は。

食堂で晩飯を口に運びながら、脳裏にふと浮かんできたのは、昼間聞いた神楽のセリフだった。
俺の前だとあまり見せることない笑顔を今日は数えきれないほど(いや終始笑っていたから数えられるはずもないが)見た気がした。
今日は徹夜だとか、早めに飯を食わなきゃとか、そんなことを俺に聞かせるわけでもなく、独り言のようにしゃべっていた。
もちろん、可愛らしい笑顔を振りまいて。

(ん?…可愛い?)

右手に箸、左手に白米の入った茶碗を持って、思わず頭を横に振る。
あの神楽がかわいいなんて、ないない。
めったに見ることのない顔を見たからそう思っただけだ。うん、そうに違いない。
そういや、神楽は今年で十七か。
今年二月に食べたきりのおでんが食卓に並び、掴んだはんぺんを口に運ぶ。そして立て続けに米も運ぶ。


「はあ、終わったぁー…ほー今日はおでんかぁ!」


ガシャン、反対側にトレイが置かれる音がして手元を見ていた顔を上げる。


「近藤さん、お疲れです」

「よー!総悟、うまいか?はんぺん」

「最高ですぜィ、はんぺんはこのままが一番でさァ、どっかの誰かさんみたいにマヨネーズかけたらはんぺんが泣くぜィ」

「おい、総悟、それは俺のこと言ってんのか、俺のことか?」

「嫌だなー自意識過剰でさァ、マヨ方さん」

「俺のことじゃねーかァァァァ!!!!」


そういえば斜め隣に土方さんも座っていたんだった。(ちっ、死ね)


「ダダ漏れだから、ワザとだろ」

「近藤さん、知ってやすかィ?今日流星群らしんでさァ」

「おーそうなのか!いや、武州で見て以来流れ星なんか見てねーな……」

「何この敗北感……」


結野アナが言ってたアル、十二時から二時にかけて一時間に五十は流れるって言ってたネ。
嬉しくてしかないのだろう。
こいつが地球に来てからもう三年は経つが、こういうところはやっぱりまだまだガキだなと思った。


「チャイナさん喜ぶんじゃないか」

「俺も神楽から聞いたんでさァ、もうすぐ十七だってのに飛び跳ねて笑うんでさァ」

「幾つになっても変わらんなー!」

「というかお前、名前…」


名前?
土方さんが驚いたように俺を見ている。(こっち見んな、きめェ)
すると近藤さんも時差があるよかのように暫くしてから同じように見つめてきた。


「二人して、何のことでさァ?」

「お前ら、付き合ってんのか?」

「……はぁ?」


こんな台詞、最近聞いた気がする。
そうだ、旦那だ。
巡回途中で立ち話をしていたら、急に怖い顔をして『娘はやらん』とかなんとか叫んで、何処かへ泣きながら消えていったのが記憶に新しい。


「有り得ないでしょう、俺と神楽が?あんな色気ねーガサツな…」

「だーかーら!チャイナ娘を名前で呼んでるだろ」

「…………だから?」


そういうと何故だか呆れ顔の土方に苦笑いの近藤さん。
なんだ、気にくわない。
神楽を神楽と呼んで何が悪い。


「兎に角、俺は別にそーゆーんじゃなくて」

「へー、じゃあ俺もチャイナ娘じゃなくて『神楽』って呼ばせて…うおっ!」


殆ど無意識に近い。
机を乗り出して土方さんの胸倉を掴んでいたのは。
すぐに我に返って離したのだが、何故そんなことをしたのか自分でもよく分からなかった。
俺をじっとみる二人の目線が、妙に恥ずかしく、まさに穴があったら入りたい、そんな気分だった。
俺達三人の間に何とも言えぬ空気が漂う。


「………最近」


耐えきれず第一声を発したのは意外にも自分自身だった。


「……こーゆーの多いんでさァ、イライラしてなんねェ、あんな女、俺ァどうでも…いいのに」





一緒に見ないアルか?
きっと綺麗アル、一人で見るよりずっと。

わ…わりィ、今日は夜勤だから。

…………そっか。




とっさに何故そんな嘘をついたのか、今になってはもう思い出せない。
気掛かりだったのは、その後の彼女の青い瞳が陰っていたこと。
なんでそんな顔するんだよ、開いた口をもう一度堅く紡いだ。
きっと俺は分かっていた。
その理由も、彼女の気持ちも。

(旦那も、眼鏡もいるじゃねーかィ、俺を誘うこたァねーだろィ)


もう喉に何も通らなかった。




気づいてないわけじゃなくて、気づきたくないだけだった。

少女から女になる。
それと同時に俺の中にある何かが変わってゆくことに。








(総悟、冷めちまうぞ)

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