必ず僕が幸せにするよ



「久しぶり、名前。今日は水泳部の皆も来てくれたんだ。
ハルちゃんは覚えてるよね」

兄さんが久しぶりに病室を訪れた。
(久しぶりというのは、期末試験があったからだ)
何だか賑やかな男子が、僕の顔をしげしげと見つめて呟く。

「何だかマコちゃんとは似てないね?」

随分とはっきりものをいう。
兄さんも苦笑いじゃないか。

でも彼の言う通りなのは事実でもある。

僕ら兄妹は下の双子も皆少し髪色が違う。
僕と妹はどちらかと言えば緑に近くて、兄と弟は茶色に近いのだ。
皆瞳の色は同じだけど、閉じているからわからないだろうし。

「それでも名前はやっぱり兄弟だ」

遙さんの言葉に、僕は思わず「えっ」っと声を上げた。
慌てて手で口を押さえる。

「ハルちゃん…」

兄さんも驚きを隠せないのか、口をポカンと開いて、遙さんを見ていた。

「それほんと?どの辺りが似てるの、ハルちゃん?」

「二人とも不器用だし臆病だ」

遙さんって実はすごいのかもしれない。

そんな感想がわいた。
兄さんのことはわからないけど、僕が不器用で臆病だというのは当たってる。
憧れすぎて、眩しくて、兄さんの好意を避け続けていた。

僕が遙さんと話したことは片手で数えられるほどしかない。
家に来たときに、母さんに頼まれて、何度かお茶を出した。
その時に二三言話しただけだ。
なのに兄さんとの共通点を見つけられるなんて、どれだけすごい洞察力の持ち主なんだろう。

「……そっか、気づかなかったな」

兄さんの素直な感想に、僕は無意識に兄さんに近づいた。

まさか意識不明の弟が、幽体離脱して話を聞いてるなんて思ってもみないだろう。
もっとも兄さんはこわがりから、そんなことが知れたら、泡をふいて倒れかねないけど。

「でもハルちゃんの言う通りだ。
名前が嫌なら無理に聞かない方がいいって、強く言うことは出来なかったから」

兄さんが僕の前髪に触れた。
それは壊れ物を扱うように優しい手つきだった。

「同じ無表情だけど、ハルのことはわかるんだ。
でも名前のことはさっぱりで。
多分俺は名前に向き合えてなかったんだ。
こうなってしまった今ならわかるよ。
避けられてた理由を恐がって聞けなかったこと、すっごく後悔してる」

兄さんの顔がくちゃりと歪んだ。
空気も少し重い。

遙さんの手が兄さんの背中を撫でるのをみた。



兄さんも、後悔していた。
僕と同じ後悔を、だ。

でも兄さんは悪くない。
後悔する必要なんてない筈だ。

兄さんが苦手だからという理由だけで、兄さんを無視し続けてたのは僕だ。
普通に話しかけてくる兄さんを見えないもののように扱って、ずっと傷つけてきた。

交通事故にあって当たり前だった。

なのに兄さんは僕のために泣いてくれて、毎日のようにお見舞いにも来てくれている。
こんな不肖の弟のためにわざわざ足を運んでくれる。

兄さん、ごめんね。

口に出してみたけれど、当然ながら兄さんには届かない。
それがとてつもなく歯痒い。

こんな近くにいるのに話せない。

今までだったら話したいなんて思えなかったけど、こんな弱々しい本音を知ってしまったら、答えずにはいられない。

事故にあってよかった。

じゃなきゃこんな機会はなかっただろうし、関係が変わるきっかけもうまれなかった。

目が覚めたら、僕から兄さんに話しかけよう。

心配してくれてありがとうって言おう。

もう無視しませんって謝ろう。

そしたら兄さん辛い顔をしなくてすむはずだ。

それから今まで家族を泣かせて困らせてきたぶん、僕が皆を幸せに導かなくちゃ。





そのためにはまず僕が身体に戻らなくちゃいけない。

ふと視線を感じて横を見れば、僕を凝視する男子がいた。
顔は青ざめ、唇は血の気を失っている。

もしかして僕が見えているのだろうか。

「あれ、怜ちゃん。どしたの?気分悪そう」

「うわ、真っ青だね」

兄さんが顔をあげて、驚いて彼を見た。

「せ、先輩たちには、みみ見えないんですか」

「見えないって何が?」

それは僕のことだろうか?

試しに声を裏返しながら喋る彼に近づいて、もしかして見えてるのと手を伸ばした。

「ヒィッ こっちにくるな!!手を伸ばしてくるなっ!」

彼は僕を払うように、手を動かした。
至近距離にいた僕の身体を、手がすり抜ける。

泡をふいて倒れたのは兄さんではなく、霊感のあった怜ちゃんであった。
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