まだまだ始まったばかり なんやかんやのすったもんだで僕と名字君は付き合う事になった。 「ふ、不束者ですがよろしくお願いします。」 「あっ、こちらこそ、よろしくお願いします。」 お互い顔を真っ赤にさせてお互い向き合ったままお互いぺこぺこと頭を下げる。 「あ、あの、俺初めて人と付き合うから何したら良いのか分かんなくて…」 「僕も初めてだからそんなに詳しくないんだ…力になれなくてごめん…」 「俺も頼りなくて申し訳ない…」 2人で悩んで、お互い思い付いた恋人同士がしてそうな事したい事を言い合う事にした。 「は、はい…!」 顔を真っ赤にしたまま名字君がおそるおそる手を上げる。 「はい、名字君。」 「え、…っと、名前で呼び合う…とか…したいです…」 「!!」 恥ずかしさに最後はもにょもにょと声をフェードアウトさせながら言う名字君。名字君の言葉に僕はさっきよりも顔が熱くなるのを感じた。うわぁああ…名前呼びか…良いな…。でも、何か、恥ずかしい、な。ああ、でも、 呼びたい。 僕は意を決して名前で呼んでみる。 「名前…っ」 「!!」 僕が名前で呼んだ瞬間、ぶわっと名字君…名前が目を見開いて顔を更に赤くさせた。…ああやめてくれ…僕も恥ずかしくなるだろ…! 「な、名前…」 「うん…」 「うわあ…めっちゃ良い…」 「!」 ふにゃ、と笑う名前に心臓がどきどきする。何だその顔反則だろ。 「じゃ、じゃあ俺も…り、り、りちゅ……ぅああああ噛んだぁあああ!!!」 「大丈夫だから!律って言ったの分かるから!」 あああ!とその場にしゃがむ名前を慌てて慰める。 「恥ずか死ぬぅう〜!!お願い殺してぇえええ〜!」 「そんな?!そこまで?!」 顔を隠してしゃがむ名前のおでこ辺りを撫でながら顔を覗き込んだ時、急に名前が顔を上げた。 (あ…っ!) ぱちん。 目が合った瞬間、そんな音が聞こえた気がした。 顔が、近い。 ぶわわ、とお互い顔が赤くなる。 恥ずかしいから離れたい気持ちと、もっともっともっと、今の距離よりもっと近付きたい気持ちが半分半分くらいになってぐらぐらゆらゆら、揺れている。 「律…」 「っ!」 切ない様な、吐息混じりに僕の名前を呼ぶその声を聞いて、薄い淡い色をした形の良い唇を見て、心臓に衝撃が走った。 ころん、 ころころ、ころん。 その衝撃の所為で揺れていた気持ちがころころと転がって落ちて行ったのが分かった。 どこに落ちて行ったかと言うと、 「はい…」 「え、あ、はい…律君…」 僕は小さく手を上げて、深呼吸をする。 「キス、とか、したい、です……」 すっかりもっと近付きたいという気持ちの方に心臓が転がってしまった僕は、思った事を名前に伝える。でもやっぱり恥ずかしいからさっきの名前と同じ様に語尾をフェードアウトさせながら言う。けど、最後の言葉が聞こえるくらい近距離にいる僕達に誤魔化しなんて効かなくて。 「キ…っ!」 目を見開き僕の言葉に驚く名前。ああ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。でも、したいんだ。僕は名前と、キスを、したいんだ。 ぎゅううう、と瞼を閉じる名前。多分、いっぱい考えているんだと思う。 僕は祈る。どうか名前が僕と同じ事を考えています様に、と。 暫くしてゆっくり瞼を開けて僕をじっと見た。 「お、俺もしたいです…」 「!」 小さな声だった。でも、僕にはしっかりと聞こえていた。多分この世界中で僕だけにしか聞こえていなかったと思う。 「同じ気持ちで良かったです…」 「えっと…ありがとうございます?」 「ふふ…、ありがとうございますって何?それより何で僕達敬語なんだろ。」 「あ、あれ?本当だいつの間にやら敬語になってた。あ、あははっ」 緊張でおかしくなったんだろう。2人でけらけらと笑う。 笑って、ふとまた目が合って。 「……」 「……」 どちらともなく、キスした。 ゆっくりと唇を離して、じっとお互いを見つめたまま話す。 「やろうと思えば出来たね。」 「うん…」 「…………ぅあああっ…!」 「い、今更思い出して恥ずかしくなるのやめてよ!僕もつられちゃうだ…ろ…っ!」 遅かった。今めちゃくちゃ恥ずかしい。 恥ずかしい、けど。 「「幸せ…」」 「「あっ」」 声がハモってお互い見合ったまま瞼をぱちぱちさせる。 「今日のこの数分だけで幸せでいっぱいなのにこれが毎日続くと思うとやばい。心臓もたないって…」 「ほんとに、ね。だって僕達恋人同士がやってそうな事殆どやってないよ…。」 「…何だと…!ほ、他には?」 「て、手を繋ぐ…恋人繋ぎ…とか…」 「…ぁああ…!聞いただけで恥ずかし…っ!!」 「でも僕達キスしたよ!こっちの方が恥ずかしくない?!」 「同じくらい恥ずかしいよ!もう何もかも恥ずかしい!」 「気持ちは分かるけど!でも恋人同士になったんだからやれる事全部やりたいよ!」 「うんやろう!!頑張ろう!!」 そう言ってぎゅっと手を繋ぐ。これはいつものノリだった。そして、お互い手を繋いでいる事に気付いて、そろそろと普通に繋いでいた指をお互いの指と指の間に入れる。 「「出来た…!」」 恋人繋ぎ、完成である。 「やっぱり勢いって大切だね。」 「違うよ。俺達だから出来たんだよ。」 名前の言葉に心臓がどきんと跳ねた。名前はふにゃ、とまた柔らかく笑う。 「律じゃなかったら出来なかった。律とだったら何でも出来るんだ。」 その言葉に僕の心臓は爆発した。 (何でそんな嬉しくなっちゃう事言うかなあ〜〜…っ!) 好きな人の前では、名前の前では格好良くいたいのに、さっきから僕は全然駄目だ。 律は?と問う名前に僕ははっきりと言う。 「僕も名前じゃなかったら出来なかった。名前とだったら何でも出来る。それに、名前じゃなきゃ嫌だ。」 そう言うと名前は嬉しそうに僕の額に自分の額を当てて来た。 「まだまだたくさんやる事あるな。」 「そうだよ。なんてったって俺達まだまだ始まったばかりなんだから。」 2人で小さく、幸せを噛み締める様に笑った。 |