子犬のワルツ』の派生。完全その後の続きと、不親切ですみません…/10年くらい未来捏造/家族パロで子供がいます/ほぼ八色キセキ





「もう! なんで主婦を追い出すかな!?」
 赤司に連れられてキッチンから出されたリコが、心外と憤慨している。あの帝王赤司が料理をするようになった理由すら汲む気のない、料理への前向きさは評価したいけれど。どうしてこうも、彼らの近くに居る女性陣は料理に盲目的なのか。もう少し周りを見て欲しい。いつもは聡いのに。
 子供たちですら灰崎の炒飯が死守され、安堵していた。
「じゃあオレはテーブル周りどうにかするっスね」
「人事を尽くせ、黄瀬」
「緑間っちは大げさっス」
 キッチンに灰崎と紫原、緑間が残り、黄瀬は戻って来る。広いといえど、巨躯の中にいるつもりなどないらしい。先に頼んでいた出前寿司をテーブルに置き始めた。
 正しくは、リビングにあるローテーブルである。通常より高い天井を持つ、4人家族では広すぎる敷地でも、巨躯含めた大人8名分を囲えるだけのダイニングテーブルなどなく。行儀は悪いが、リビングにあるソファや直座りで座る場所を確保となった。
「リコさん、グラスをこちらに」
「持てるわよ、これくらい」
「あぶない」
「断定的ね、お盆出すわよ、もう」
 飲み物を用意する赤司夫妻を生暖かく見守るのは、青峰と黒子だ。前者はやや笑い、後者は冷ややかである。
「かはっ人間丸くなるもんだな」
「青峰君に言われたら終わりです。ああ…僕としては許しがたいマジで」
「テツがマジでとか言い出したぞ、さつき」
 誠凛大好きの黒子がドス重たい空気を纏うので、青峰はからかうようにさつきを見れば――
「テツ君かっこいい」
 幼馴染みも平常。相変わらずの憧れな瞳をうるませていた。青峰にしては珍しく引いていると、両膝に乗せた子供たちが首を傾げる。
「だいきくん、さつきちゃんにやさしく」
 しかも息子に諭された。
 そういう話じゃない。青峰は正しい意見を思い浮かべ、息子の将来に不安も感じられたが、「さつきにはこれで良いんだよ」とだけ返した。すると、面倒であしらっても、嘘はつかない青峰に、息子も食いつかず「そうなの」と頷くだけ。さつきに対する青峰の反応を覚え、増やしているようだ。
「準備出来たー?」
「寿司と炒飯ってどうなんだ? 作っといてナンだが…」
「希望に添うのは大事だ」
「アマやかしじゃねーの、ソレ」
 キッチンから紫原、灰崎、緑間も出て来た。大皿に炒飯が盛られており、子供たちは青峰の膝から飛び降りて、ぱたぱたと3人にくっ付いた。大歓迎なのは良いが、足にくっ付かれると、動けない。あしらうように蹴ったら、赤司から何を受けるか、分からないのもある。リコから「こらっ」と咎められるまで、3人がビシリと止まったのは言うまでもない。

 グラスに注いだウーロン茶と、急須から淹れたお茶、統一なく飲み物が用意される。食べ物も寿司や炒飯と差が激しく見た目も酷い。けれど、子供たちがはしゃぐので、誰も声に出さなかった。滅多に揃わないのだ、水を差さない。
 テーブルに揃い、準備万端というところで、リコが壁掛けの時計を見上げる。帰って来た側の、この場では不思議な動きに、赤司がまず目を留めた。
「リコさん、」
「ん?」
 いつもの表情でリコが目を合わせてくる。隠していないと分かるが、何か気にしているのも確信していた。宅配便でも来るのか、仕事から連絡でもあるのか。
「何を待っている」
「……え? あ、あれ? 聞いてない? だから誰も触れないのか…」
 赤司からすれば予想外な展開だった。リコは誰かに伝えたようで、触れ渡っていると思っていたらしい。すると、各々席に着いた辺りで、さつきが「あ」と声をあげる。
「ごめんなさい、楽しくてすっかり忘れてました」
 さつきが可愛らしい、申し訳ない表情を浮かべていた。どうやら伝達はさつきで止まっていたらしい。
 全員「黙っていやがった」と正確に読み取っていた。性格を構築する思春期共にいて、繕う以前も分かっているからこそ、気付きやすい。それを抜きにしても、リコですら分かった。

「私も最近まで知らなかったんだけど、あなたたちにも帝光時代、先輩いたのね」

 当たり前だ――と皆言い切ろうとしたが、ひとつ訳の分からない単語が含まれていた。
 彼らがバスケットボールと向き合い直したのは、高校時代。リコはその以前に、上を敬っていたと思っていたいなかったらしい。いや、それではなくて――

「けいたい、なってる」
「待って、取りにいく。あれ、お母さんの、」
 現実を受け止めかねていた大人たちに不思議そうな子供たちは、携帯電話が鳴っていることに気付く。否、蚊帳の外だからこそ聞こえた。息子が先に反応し、娘が取りにいく。手に取ってみれば、リコのものだったので、彼女の元へ。
「お母さん」
「有難う。誰からか、読める?」
 膝を屈し、携帯電話の画面を見せ、勉強の結果を試そうとする。まだ小学生に上がる前で漢字を見せるリコの鬼畜さ。それを当たり前と思っている娘は平然と画面を見つめるも――
「村しか読めない…」
 少々断念。悔しそうな表情を滲ませた。
「えらいえらい。十分よ」
 リコが娘の頭を撫でる。その間も携帯電話はけたたましく鳴っているが、出る気もないのか。
「話が、その、途中なのだよ」
 緑間が問いかけると、リコは顔を上げ、申し訳なさそうに眉を下げた。娘最優先のようで、他全て放置していたらしい。
「ちょっと電話出てくるわ、後、桃井よろしく」
「え、私ですか? ずるいです、リコさん!」
「黙ってたんだから、そっちがどうにか…て、うるさい! しつこい! はいもしもし!!」
 言い切るや否や、電話に出て文句を出すリコの後ろ姿を見つめていた周囲だがーー

「虹村君、しつこい男は、はいはい、聞こえてます」

 散々電話を取らなかったリコが、文句零しつつ、リビングを出て行く。その直後、チャイム音が響いた。
 なんの、予告だろう。なんの、宣告だろう。
「え、本気?」
「おい、さつきてめえ」
「オレ帰るわ」
「……人脈が広いのだよ」
「そうでしょう、素敵な方です」
「テツヤ君がほこらしげ」
 紫原が珍しく驚嘆し、青峰が震えながらキレ、灰崎が腰を上げ、緑間が正常を繕えていない唖然を見せ、黒子が現実逃避をし、娘が黒子のリコ評価に嬉しそうで。
「しょうごくん!」
 息子が慌てて立ち上がり、灰崎にくっ付く。意味が分からずとも、帰ろうとしていることは分かるらしい。帰らないで、と焦っていた。
「しょうごくん?」
 困り顔を解けない灰崎が息子を抱き上げる。彼なりに子供たちと上手く接しているらしい。過去を踏まえれば珍妙な光景も、誰ひとり茶化す余裕がなかった。
「10年以上前が最後で、フツー顔ださねーだろ…」
「リコさんの男関連に把握出来ていないとは」
 灰崎のそこそこ無難な発想を他所に、それどころではない赤司が黒子とは違う意味の懸念をしていた。
「おい、物騒なことを言うな」
 緑間が冷静な指摘をする。いつでもどこでも、この中で一番全うありたいと思うが故の、真面目さ。それを周囲は「無駄な足掻き」と落とすから、仲が良いのか悪いのか。
 その横で黄瀬が「オレあんま接点ないんスよねー」と余裕をかまし、さつきは終始笑顔だ。逢えることを楽しみにしているのか、現状に楽しんでいるのか、もはや紙一重である。
「リコさんの同僚なんだって。最近帝光で主将やってたの知って、仲いいなら呼ぶべき? て、相談受けたの。1時間前に」
 さらっと白状するさつき。ここで言うかお前、みたいな空気が流れ、赤司が眉間に皺を寄せ「同僚?」と唸るのも一瞬。

「いきなり輪に入って悪いな。相田もアウェイだから良いだろ、と思って参加するぜ! 久しぶりだな後輩ども!!」

 いい大人が元気よく入って来た。
 年を重ねているが、髪色や目元に変わりなく、面影もあって。過去の記憶はこびりついているのか、現実を見て、ぴしりと固まったの数名。黄瀬とさつきが笑顔で「久しぶりです」と挨拶をし、灰崎に抱き上げられた息子が「しゅうぞうくん!」とはしゃいだ。入って来た男の後に続いたリコが扉を閉めながら「あ、本当に主将だったのね、虹村君。みんな驚いてるわ」とのんきな声をあげていた。




メフィスト・ワルツ
-Mephisto Walzer-





 娘の入学祝いと称して集合したこの日、時刻――昼過ぎ。第二幕は波瀾万丈に開幕していたし、終幕はほど遠かった。






※この後の話『続 メフィスト・ワルツ-前編 / 後編/fermata



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