02
数日後 池袋某所ーー
「……池袋に居たら静雄に怒られるんじゃないの?」
「会わなきゃ大丈夫だよ。ってか、池袋はシズちゃんのものじゃないんだから、『来るな』なんて言われる筋合いは無いんだけどね」
今朝、臨也から『今日暇だよね? 池袋に行くから会おうよ』とメールが来て、私は今臨也と一緒に自宅の近くにある喫茶店に居る。
先程注文したものが運ばれてきて、アイスティーを一口飲み、出来立てのホットケーキを一口大に切り分けて口に運ぶ。ほんのりとした甘さが口の中に広がり、ほっと息を吐いた。
向かいに座っている臨也はアイスコーヒーだけを注文し、それをブラックのまま飲んでいる。
臨也と池袋で過ごす間は、静雄の存在を気にしなければならない。静雄が私の存在を認識すると自動販売機やら電柱やらを投げてくる事は無いけど、やっぱり気が気じゃない。
だけど臨也は余裕綽々で、少し苛ついてしまう。巻き込まれるかもしれない私の事を少しは考えてほしい。
……とにかく、目的を確認しないと。
「……で? わざわざ池袋に来た目的は?」
「なまえとデートしたかったからだけど?」
「……」
にっこりと笑ってさらりと言ってのけるその演技力は正直凄い。臨也の事をよく知らない女の子なら、ころっと騙されるだろう。
でも、私は臨也がどんな人間なのか知っているから、この言動が嘘であるとすぐに分かった。
「あれ? 無視? 酷くない?」
何と返そうかと黙って考えていると、臨也が笑顔のまま小首を傾げて不満気な言葉を口にした。私は溜め息を漏らして、返事をする。
「……誰かに会いに来た、とか?」
「……正解。“なまえも会いたい”んじゃないかな」
「え……?」
思いもよらぬ呟きに今度は私が小首を傾げる番になった。
私も会いたい……って事は、私と臨也の共通の知人って事、だよね。誰の事を言っているんだろう。
不思議に思うも、やり取りしている内にホットケーキが冷めてしまうのは勿体無いので、ホットケーキを食べる事を優先しよう。
「……そろそろ行こうか。この時間ならもう終わってるし、その辺に居るんじゃないかな」
皿もグラスも空になると、臨也がゆっくりと椅子から立ち上がり、さっと伝票を手に持ちレジへと向かっていった。
「え、ちょ……」
もう少しゆっくりしたいのに……! なんて言う間もなく、諦めて鞄を持ち臨也の後を追う。臨也は手早く会計を終えたらしく、ドアを開けて喫茶店を出た。
「……臨也、いくらだった?」
「別に良いよ、気にしないで」
店主に軽く頭を下げて私も喫茶店を出て、先に歩いている臨也の隣に行き、自分の鞄から財布を取り出そうとすると、あっさりと断られた。
「……最近出してもらってばっかりで悪いよ」
「気にしなくて良いのに。……でもまぁそう言うなら、『夜』も付き合ってもらおうかな」
「? 予定無いから、別に良いけど……」
私が首を縦に振ると、臨也は口角を上げた。
何に付き合わされるのか分からないけど、まぁ、きっと碌でもない事だろう。
そう考えて、私も口角を上げた。
◆170903
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