01
「ねぇ、前に言ってた『ダラーズ』はどうなったの?」
「……今日のピロートークはそれが良いの?」
乱れた呼吸が整ってから、女は唐突に切り出した。自分の素肌を隠すことなく、隣に居る男をじっと見つめる。
問い掛けられた男は面食らった顔をして、少し呆れたように返す。
「だって臨也、全然教えてくれないから」
二人が居るのは新宿の高級マンションの一室で、二人はベッドに横たわっている。
拗ねているように見える女の髪に指を絡ませ、男は宥めるように言葉を紡いだ。
「まだ確証を掴んでないからねぇ、もうちょっと待ってよ。分かったらちゃんと教えてあげるからさ」
「……約束だよ。嘘吐いたら……静雄に適当なこと吹き込むからね」
「シズちゃんの名前出さないでよ、萎える」
「もう終わったから良いでしょ」
女の口からその名前が出た途端、男はぴくりと眉を動かし、心底嫌そうに溜め息を漏らした。そんな様子を見て少しだけ満足した女はあっさりと言い放つ。
「……なまえは我儘に育っちゃったよね、ほんとに」
「臨也のせいだもん。……もう寝る、おやすみ」
女は言いたいことを言って、男に背中を向けて瞼を閉じた。すぐに寝息が聞こえてきて、女が眠りについたことを確認してから、男はゆっくりと身体を起こしてベッドから下りた。少し前にベッドの下に放った下着を拾い、それだけを身に付ける。
そして少し離れたところに置いていた自分の携帯電話を手に取り、それを操作しながらベッドの端に腰掛けた。
「最近退屈させちゃったからね……でも、もうちょっとで始まるから。きっと楽しめると思うよ、俺もなまえもね」
ぽつりと漏らした言葉は、女の耳に届くことはなかったが、男は気にせずにニイと口元を歪める。
「……楽しむどころか、夢中になっちゃうかもね? それはちょっと困るなぁ……」
何を想像したのか、ニヤニヤと笑いながらブツブツと独り言を続ける男。その後黙って何かを考えていたが、やがて自分も睡眠を取ろうと決め、携帯電話を元の位置に戻してから女の隣に横たわる。
「おやすみ、なまえ」
女の髪にそっと口付け、リモコンで電気を消して男も眠りについた。
◆170829
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