Merry Christmas B
俺はクリスマスも情報屋として働いており、今は池袋に来ている。シズちゃんがセルティ達のクリスマスパーティーに参加するって知っているから、今日は出会さないだろうと考えて、大手を振って池袋の街を歩いている。
「……ん?」
今日最後の仕事を片付けるために移動している途中にコートのポケットに入れている携帯が短く振動した。どうやらメールが来たらしい。俺はポケットから携帯を取り出して、メールを確認する。
「……へぇ。それなら、少し急がないといけないか。」
差出人はなまえで、バイトが早く終わりそうだという内容だった。今日はなまえのバイトが終わったら二人で過ごす予定だったけど、時間が早まるのは想定していなかった。ま、大した仕事じゃないからすぐ片付ければ良いんだけど。
「分かった、迎えに行くから終わったら連絡してね……と。」
小さな声でメールの内容を口に出し、なまえに返信する。携帯をポケットに戻して、少し早足で依頼人の元へと向かった。
♂♀
「お疲れ様、なまえ。」
「臨也……! 臨也もお疲れ様。」
ケーキも焼き菓子も完売して、片付けも済ませて、今日はいつもより早くに上がることになった。店から出て少し離れたところで臨也に連絡すると、すぐに臨也が現れた。
臨也は何も言わずに私が持っていたお店の紙袋を持ってくれた。中には小さめのクリスマス仕様のホールケーキが入っている。そして、臨也から手を繋いでくれたので、そっと指を絡めた。
「……どうする? まだ時間あるし、何処か寄っていくかい?」
「そうだね……臨也とこの辺りのイルミネーションを見たいかな。」
私のバイトが終わったら家に帰って二人で食事してゆっくり過ごす予定だったけれど、バイトが早く終わって時間が出来たので、自分の希望を伝えてみた。
「良いよ。じゃあ行こうか。」
「ありがとう。」
今の時期は何処でもイルミネーションをやっていて、街が光で華やかに彩られている。此処から池袋駅までの間もイルミネーションがあり、それを見ながら帰ろうとゆっくりと歩き出す。
「……綺麗だね。」
「うん。」
隣を歩いている臨也をちらりと見ると、臨也はイルミネーションを見ながら小さく頷いた。その横顔が何だか可愛らしく思えて、私はくすりと笑った。
「……何?」
「可愛いなぁって思って。」
「それ……普通は逆の台詞じゃない?」
私が笑ったことに気付いた臨也が私を見てきて、私の返答に少し不満そうに眉を寄せた。そんな様子も可愛らしい。そう思ったのが分かったのか、臨也が手を握る力を少しだけ強くしてきた。
「……俺なんかより、なまえの方がずっと可愛いよ。」
「……う、……あ、ありがとう……。」
微笑んで言われて嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、私は臨也から視線を逸らした。
「恥ずかしがらなくて良いのに。ほんと、可愛いね。」
そう言いながら楽しそうに笑う臨也。私は話題を変えようと、思いついたことを口にした。
「……お、お腹空いたね。」
「そうだね。パーティーの準備は終わってるよ。」
「ごめんね、任せちゃって……。」
「気にしないで。レシピは用意してくれたんだしさ。」
……私が二日間ずっとバイトだからって、料理をしてもらったのはやっぱり申し訳無いな。でも、申し訳無いのは本当だけれど、楽しみだったりもして……。
池袋駅までゆっくりと歩きながら二人でイルミネーションを楽しんで、電車で帰ろうとすると、臨也に手を引っ張られた。
「臨也?」
「タクシーで帰ろう。すぐ呼ぶから。」
♂♀
「ご飯もケーキも美味しかったね!」
「そうだね。ご馳走様。」
隣に座って満足そうに笑っているなまえを見て、俺もつられて笑みを浮かべた。
レシピ通りに作ったけど、喜んでもらえて良かったよ。なまえのバイト先のケーキも美味しかったし。
さてと、次はーー
「プレゼント交換、しよっか。」
「う、うん……! 取ってくるから、ちょっと待ってて。」
誕生日とクリスマスは、お互いにプレゼントを贈り合うことになっている。
まぁ俺は誕生日とクリスマス以外でも、なまえにプレゼントを贈っているんだけどね。服とかアクセサリーとか。なまえに似合いそうだなって思うと買っちゃうんだよね。
なまえはソファから立ち上がり、2階に上がっていった。俺もソファから立ち上がり、デスクの引き出しに入れていたプレゼントを取り出した。
「……気に入ってもらえると良いけど。」
小さな声で本音を呟き、それを持ってソファに戻る。ちょうどなまえが部屋から出てきて、階段を下りているところだった。はしゃいでいるから転ばないか少し冷や冷やしながら、なまえを待つ。
「お待たせ。先に私から渡すね。……メリークリスマス、臨也。」
転ぶことなく戻ってきたなまえが俺の隣に座り、少し緊張した面持ちでプレゼントーー包装された長方形の箱を渡してきた。中身を想像しながら、それを受け取る。
「ありがとう。開けるよ。」
何が入っているんだろう?
少しドキドキしながら、ゆっくりと包装紙を外していく。包装紙の下には箱があり、それを開けるとーー上質なボールペンが入っていた。
「……へぇ、今年はボールペンか。」
「……どうかな? お仕事で使えるかなって思って……。」
「うん、気に入ったよ。ありがとう。早速明日から使わせてもらおうかな。」
ボールペンを箱から取り出して、質感を確かめる。書き心地も良さそうだ。俺は満足して、ボールペンを箱に戻した。
「次は俺の番だね。メリークリスマス、なまえ。」
なまえとは反対側に置いていたプレゼントを手に取り、なまえへと差し出す。なまえはプレゼントーー小さな箱を受け取り、まじまじと小箱を見つめた。
「……開けないと中身は分からないよ?」
「え、あ、うん。そうだね……。ありがとう、開けるね。」
中身の予想は出来ているだろう。同じような物を何度も贈っているからね。それでも……なまえが気に入ってくれるか、ほんの少し不安だ。
なまえはしゅるりと短いリボンを解き、ゆっくりと箱を開けた。中身を確認して、少し驚いたような表情に変わった。
「なまえ?」
「こ、これ……少し前にお店で見た指輪……?」
「うん。一緒に見た物だよ。あのときは遠慮したけど、随分気に入っていただろう?」
俺がなまえに贈った物は、華奢なデザインの指輪だ。
少し前に、クリスマスプレゼントのリサーチのつもりはなかったけど、タイミングが合ったから一緒に買い物に行った。そのとき、なまえがこの指輪をずっと見ていたから、プレゼントしようかって聞いたら、なまえは固辞した。
それで、その後にクリスマスプレゼントをどうしようかと考えたときにこの指輪のことが浮かんだっていうわけ。
「あ、ありがとう……。嬉しい……!」
「気に入ってもらえて良かった。」
なまえは胸元に小箱を押し当てて、嬉しそうに笑った。なまえの頭をそっと撫でてやると、甘えるように俺に体重を預けてきた。密着するためになまえの肩を抱き寄せ、耳元に唇を寄せて囁いた。
「……まだ寝るには少し早いね。二人で聖夜を祝おうか?」
「……! ……うん、一緒に……ね。」
どうやら意味が伝わったらしい。小箱をテーブルに置き、俺の方を見るなまえ。俺はそっとなまえの唇に自分の唇を重ねた。
Merry Christmas !
◆161225
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