party time @
ーー私は、彼が好きだ。
彼は私の気持ちを知っていて、知った上で私を側に置いてくれている。決して生温い仕事ではないけれど、それでも彼の役に立てるのなら、大抵のことはやってのけてみせる。
…そう、大抵のことは。
「…四木さん。」
「何ですか?」
「…次の仕事についてなんですけれど…。」
深夜、池袋にある小さなバーで、私と彼は小さなテーブルを挟んで向かい合うように座っていた。
お互いにカクテルを頼み、それを飲みながら仕事の話をしていたが、私はグラスをテーブルに置いてから、姿勢を正して話を切り出す。
「…私が折原さんとパーティーに出席というのは…本当ですか…?」
「えぇ。」
否定してほしくて話したのだけれど、彼はあっさりと頷いた。
「…折原さんってすごく苦手なんですよね…。」
酔っているわけではない。自然と、本音を漏らしてしまった。
慌てて口元を片手で押さえるが、彼の耳にはしっかりと届いていたようで、静かに告げられた。
「…仕事ですよ。」
「はい…。」
あぁ…失態を犯してしまった…。彼の前では完璧な部下で居たかったのに。今までの努力が水の泡に…。
「貴方に苦手な人間が居るとは。」
呆れられてしまったのでは、と不安でいっぱいになっていたが、彼は楽しそうに笑った。仕事中に見せる笑みではなく、純粋な笑みに見える。
「…居ます、よ。折原さんは何を考えているのかよく分からなくて…。」
「そうですね。でも、それは私もでしょう?」
「…四木さんの場合は、そこも魅力といいますか…。」
…また失態を犯してしまった…。今日の私の口は軽すぎる。決してプライベートではないのに、気が緩みすぎている。穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
「おや、そう言っていただけるとは…。」
「申し訳ございません、今のは聞かなかったことに…。」
そして彼は何故嬉しそうなのだろうか。折原さんとは違う反応を見せたから?いや、そもそも彼には好意を持っているのだ、いつもは言わないだけで、いつもそう思っている。
「何故です?」
「え?」
「酔っ払っているようには見えませんがねぇ…。」
むしろ酔っ払って何もかも覚えていない方が好都合かもしれない。でも、私は酔っていない。これっぽっちも。
なのに何故…言ってはならないことばかり口にしているのだろうか。
店内には私達以外の客は居らず、カウンターから離れた席に居るため、とても静かだ。店内が薄暗いこともあって、もしかして大胆になっているのだろうか。
「…酔ってはいません。お酒はそこそこ強いので。」
「そうですか。…では、先程の言葉は嘘ではないのですね。」
…酔っていると言うべきだったかな。いや、でも、彼に嘘は吐きたくない。
「…折原さんのことは、すごく苦手です。でも、四木さんの命令であれば従います。…ただ、仕事を終えたら…一緒に食事をしていただけると…嬉しいです…。」
二度も失態を犯した私は、今はもう怖いものなんて何も無い、という気持ちになっていた。きっと彼と別れたらすぐ後悔するだろうということは百も承知だ。
「構いませんよ。」
「!…ありがとう、ございます。」
何を言っているんだこいつは、というような表情をされるかもしれないという不安をよそに、彼はあっさりと頷いた。
…彼はポーカーフェイスが上手だから、私が彼の真意を読み取れていないだけかもしれない。でも、とても嬉しい。
「何処に行きたいか、考えておいてください。勿論、仕事をきちんとこなしていただくのが必須ですが。」
「はい。」
ご褒美も楽しみだが、それよりも彼の役に立つために全力でやってのけようと決意した。
(ところで、何故苦手なんです?)(…とあることで散々絡まれまして。)(…そうですか。)(四木さんに好意を持っていることについてとは言えない…。)
◆160917
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