幸せのカタチ


「……映画、つまんない?」

「え……あ、……ちょっと考え事してた……」

映画好きのなまえが観たがっていた映画のDVDを借りて、俺の部屋で観ていた。俺は映画よりも映画を観ているなまえを見ていた。そのおかげで、なまえが珍しく映画に夢中になっていないことに気が付いた。というか、今日は何だか元気が無いように見える。

俺が小首を傾げて問い掛けると、なまえはテレビから俺へと視線を移して、曖昧に笑った。その笑みは、俺が好きな笑みではない。

「……映画じゃなくて、何考えてたの? 俺のこととか?」

「……っ、……うん。臨也君の、ことだよ」

「……俺の、何?」

どうやら図星だったらしく、何故分かったのかと言いたそうな表情をしながら小さく頷いた。なまえが紡ぐ言葉を予想しながら、話すように促す。

「……大したことじゃないんだけど……、最近、会社の人や友達で結婚した人が何人かいて……」

「……結婚、ねぇ」

まさか結婚の話が出てくるとは予想出来なかったけど、なまえが言わんとしていることは理解出来た。俺はそれを叶えてやることが出来ない。なまえのことは好きだ。人間という大きな括りではなく、一人の女として。だからこうやって側に置いている。けれどーー、

「あ、違うの、臨也君と結婚したいってわけじゃなくて……! ……ううん、したくないわけでもないけど……それは無理だって最初から分かってるから……」

「え?」

「ただ……なまえさんはしないの? って聞かれることが重なっちゃって、ちょっと疲れただけ……。ごめんね、せっかく借りてくれたのに」

俺の考えが分かったのか、なまえは慌てて左右に首を振った。なまえは俺より二つ年上で、普通の会社で働いている。だからそういう話がよく出るのだろう。
なまえの言葉は半分本当、半分嘘といったところかな。俺とは違って普通ななまえは、結婚に憧れていると思う。ウェディングドレスを羨ましそうに見ているのを見たことがあるし。付き合っているのが俺じゃなければ、そんな未来が待っていただろうに。

頭の片隅でなまえを可哀想だと思ってしまう自分がいる。そうさせているのは、俺自身だというのに。

「映画のことは気にしないで。……俺達、付き合って4年くらいだよね? それなら周りにそんなこと聞かれるのも頷けるけど……、でも、俺はしないよ」

「……知ってるよ」

はっきりと否定すると、なまえの瞳が揺れた。唇を少し噛み締めて、涙を堪えているように見える。

違う、そうじゃない。泣かせたいわけじゃ、ないんだ。

この話の相手がなまえでなければ、『結婚が全てではない』とか『周りを気にする必要なんてない』とか言ったかもしれないけど、なまえにそんなことは言えない、言いたくない。

「……それでも良いなら、なまえと居たい」

俺の本心をなまえに信じて欲しくて、真剣な眼差しを向ける。すると、なまえの瞳がまた揺れた。そして、なまえは横からぎゅっと抱きついてきて、俺の肩口に額を当てた。

「……っ、うん……私も、臨也君と一緒に居たい。臨也君が、好きだから……」

「……話ならいつでも聞いてあげるから。溜め込まないようにしなよ」

「ありがとう、臨也君」

なまえが抱きついているために左手は動かせず、右手を伸ばしてそっと頭を撫でながら優しい言葉を掛けると、なまえは嬉しそうな声で返事をした。

感謝されるようなことはしていない。だって、なまえを苦しめているのは俺だから。それでも、それ以上になまえに幸せを与えてやりたいと、想う。





◆170709







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