1.0 02
「…ちょっと早く着いちゃったかな?」
なまえは待ち合わせ場所に約束の時間より少し前に到着した。鞄から携帯電話を取り出して、現在の時刻を確認して小さく呟く。
楽しみだったあまりの行動だったが、すぐに臨也が現れてなまえに声を掛けた。
「お待たせ、なまえ。」
「臨也…お疲れ様。入ろっか。」
待ち合わせ場所はカフェの前だったため、二人はそのままカフェに入る。窓際の二人がけの席に案内され、二人は向かい合うように椅子に座り、テーブルにメニューを広げ、なまえはじっとメニューを見つめた。
「うーん…ケーキにするか、チョコレートにするか…悩む…。臨也は何にするの?」
「…そうだね、俺がチョコレートにするから、なまえはケーキを頼みなよ。そうすればどっちも食べられるだろう?」
注文するものをなかなか決めることが出来ず、困ったように笑みを浮かべるなまえ。臨也はメニューではなくそんななまえをテーブルに頬杖をつきながら見つめていたが、助け船を出してやる。
「…!…うん、ありがとう。あ、すみません、注文したいんですけど。」
せっかくなのでその通りにすることにして、水を持ってきた店員に注文を伝える。
注文したものが運ばれて来るまで、なまえは店内をきょろきょろと見回した。
天井と壁は白色で、床とテーブルと椅子は木目調で統一されている。ところどころに植物が置かれており、リラックスしやすい雰囲気を作り出していた。
「…これも美味しそう…あ、でも夜限定かぁ…。」
「時間限定のメニューがあるの?」
「そうみたい。美味しそうだよ。」
店内の観察を終え、再びメニューに目を通すなまえはあるメニューが気になり、独り言のつもりで呟くと、臨也が小首を傾げた。
そんな臨也の目の前にメニューをやり、そこにはイチオシ!ビーフストロガノフという文字と写真が載っていた。
「ならまた来れば良い。今日は無理だけどね。」
「一緒に来てくれると嬉しいな。」
臨也が頷くのと同時に、注文したものが運ばれてきた。メニューを端に立てかけて、テーブルに注文したものが並べられるのを待つ二人。
テーブルには、なまえのアイスティーと臨也のホットコーヒー、それと苺のショートケーキとチョコレートが並べられた。
「いただきます。…ん、美味しい。」
アイスティーを一口飲んでから、すぐに苺のショートケーキを一口食べる。ケーキは甘さ控え目で食べやすく、幸せそうに目を細めた。
「チョコレートも美味しいよ。」
三粒のチョコレートが乗っている皿に手を伸ばして、右端の円形のチョコレートをつまみ、それを口に放り込む。ビターチョコレートの味が口内に広がり、臨也も目を細めた。
「一つ欲しいな。あ、臨也もケーキ食べる?」
「うん、貰おうかな。」
臨也が皿に乗っているチョコレートを一つつまみ、なまえの口元に運ぶよりも少し早くに、なまえが一口分のケーキをフォークに乗せて臨也の口元へと運んだ。そして、何処か嬉しそうに食べるように促した。
「はい、あーん。」
「…ん。…美味しいね。」
先にチョコレートを食べさせてやるつもりだったが、嬉しそうにしているなまえに待てと言うことは出来ずケーキを食べさせてもらい、感想を口にする臨也。なまえはその感想に満足そうに笑う。
「良かった。」
「なまえもチョコレート食べなよ。ほら。」
周りに全く客が居ないわけではないが、二人は人目を気にすることなく、お互いのものを食べさせ合った。
ーーまるで、仲の良い恋人同士のように。
だが、二人は恋人同士ではなく、互いを愛し合っている双子の兄妹だ。
「…苺のソースが入ってる。美味しい。」
「良かったね。」
チョコレートを食べさせてもらい、味わってから感想を口にするなまえ。臨也もまたその感想に満足そうに笑う。
「臨也と一緒に来れて良かった。」
「俺もだよ。」
甘い雰囲気だが一切の邪魔を許さない雰囲気を醸し出す二人をちらちらと見る者は居たが、二人について語られることはなかった。
◆160909
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