04


「……ふぅ……」

夕飯の後片付けをくるちゃんとまいちゃんに任せて湯船に浸かると、自然と溜め息が漏れた。

今日は色々あったなぁ……。くるちゃんとまいちゃんと餃子を食べたり、買い物をしたり、映画を観たりしたのは楽しかったけれど、万引き犯が取り押さえられるところを見たり、暴走族か何かの集会を見たりしたのは怖かったな……。

「……今日は臨也からメールが来なかったし……何かあったのかな……」

思わず声に出してしまったけれど、浴室には私しか居ないから、返事は無い。

私がくるちゃんとまいちゃんと一緒に実家で過ごしてからもう三日目だけれど、臨也が側に居ない事には一向に慣れない。くるちゃんとまいちゃんが居てくれるから何とか平気だけれど、もしも一人だったら、きっと寂しくて堪らないだろう。

私と臨也がこうして離れる事は今までに何度もあった。ただ、こんなに長い間離れるのは、二人で暮らしてからは初めてだ。

本当は離れたくないけれど、仕事の邪魔はしたくないから、我儘は言えない。一人きりで待つわけじゃないし……。

今頃、何処で何をしているのかな……。

「……はぁ……」

二度目の溜め息が漏れてしまった。くるちゃんとまいちゃんには心配をかけたくないからこんなに溜め息を吐く事は出来ない。

今日も一人で眠らないといけないと思うと憂鬱だな。

湯船に浸かりながら悶々と考えていると、何だか頭がぼんやりとしてきた。のぼせてしまう前に上がらなきゃ。私は緩慢な動作で湯船から立ち上がり、浴室を出た。



♂♀



ピリリリリリリ

「……ん……」

突然、携帯電話の着信音が聞こえてきて目が覚めた。電気をつけたままいつの間にか眠ってしまったみたいだ。
ゆっくりと身体を起こして、近くに置いていた携帯電話を手に取り、画面に表示されている名前を確認して、慌てて通話ボタンを押してそれを耳にあてた。

『もしもし、なまえ? 今大丈夫?』

「う、うん、大丈夫……」

電話を掛けてきたのは、臨也だった。昨日まではメールのやり取りしかしてなかったから、少し驚いた。でも、声を聞く事が出来て嬉しい。

『なんか眠そうだね。もしかして起こしちゃった?』

「あ……うたた寝してただけだよ。気にしないで」

そう言えば今は何時だろう。時間が気になって部屋に置いている時計を見ると、もうすぐ午前0時になるところだった。

『なまえ、いつも23時には寝てるだろうから、悪いとは思ったんだけど……どうしても、電話したくて』

「……何かあったの?」

臨也が歯切れの悪い言い方をするのは珍しい。私に言いにくいような出来事があったのだろうか。

もしかして、怪我を負ったとか……?

『俺は元気だよ。それより……大切な事を忘れてない?』

「大切な事……?」

私の予想は外れたみたいで、それはそれで一安心だけれど、大切な事って何だろう。

空いている方の手を口元に当てて考えると、ふと、今日まいちゃんに言われた事を思い出した。

『明日はイザ兄とナマエ姉の誕生日だね! イザ兄は居ないけど、二人のお祝いしようね!』

誕生日ーーそうだ、5月4日は、臨也と私の誕生日だ。

「あ……」

『……なまえ、まさかとは思うけど、忘れてたの?』

「う……ごめんなさい……」

臨也の声が少し低くなった気がして、素直に謝った。

いくら臨也が側に居ないからって、こんな大切な事を忘れちゃうなんて……。臨也が怒るのは当然だ……。

『思い出してくれたから良いよ。寂しい思いをさせてるしね』

「……くるちゃんとまいちゃんが居てくれるから、大丈夫だよ」

臨也が側に居ないのは、寂しい。でも、私がそう思っている事を理解してくれているし、臨也がくるちゃんとまいちゃんと話をしてくれるのは助かる。

『……帰ったら、たっぷり可愛がってあげる』

「あ、ありがとう……」

嬉しいけれど、ちょっと恥ずかしい……。

時計をじっと見つめながら、小さい声でお礼を言う。

あと3秒、2秒、1秒ーー

『誕生日おめでとう、なまえ』

「臨也、お誕生日おめでとう」

0時ちょうどに、お互いの誕生日を祝った。

側に居ないから触れる事は叶わないけれど、今年も一番に言えて、言ってもらえて、嬉しいな。

『約束通り、お祝いは俺が帰ってからになるけど……良い子で待ってるんだよ?』

「うん。ちゃんと待ってるから」

『じゃあね、また連絡する。おやすみ、なまえ』

「ありがとう。おやすみなさい」

挨拶を交わすと、通話が終了した。携帯電話を元の位置に戻して、ベッドに横たわる。臨也と私の誕生日を祝えた事を嬉しく思いながら瞼を閉じた。





◆170902







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