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5月3日 池袋 サンシャイン60通りーー

池袋の有名なストリートの一つである、サンシャイン60通り。

通称「60階通り」と呼ばれ、駅の東口からサンシャインに向かう、池袋に電車で来る者達にとっては最も有名な通りの一つであろう繁華街だ。
駅からサンシャインビルに向かう近道であり、時には一本隣にある「サンシャイン通り」と混同されるが、れっきとした別の通りである。

時はゴールデンウィーク。
長い休みに入ったばかりという事もあり、通りはいつも以上の賑わいを見せている。

「いつもより人が多いね……くるちゃんもまいちゃんも、はぐれないように気を付けてね」

「はーい。でもどっちかと言うと、ナマエ姉の方がはぐれちゃいそうな気がする」

映画館に向かって歩きながら側に居る妹達に注意を促すと、舞流が小さく笑って返事をした。九瑠璃も同感なのか小さく頷き、なまえの左手を軽く掴んだ。

「う……大丈夫だよ、多分……」

妹達の反応に少し困惑しながら、なまえは九瑠璃の手を握り返した。

「時間までこれ読んどこうっと」

映画館に到着して時間を確認すると上映時間までまだ少し時間があり、なまえ達は既に形成されている待機列に並び始める。舞流はカバンから本を取り出して、人目を気にせずにそれを読み出した。

「……まいちゃん……それは……」

てっきり雑誌を読んでいるのだと思っていたが、それにしては表紙に写っている女性の露出度が高過ぎる事を不思議に思ったなまえは、舞流が読んでいるのはいわゆるエロ本である事に気が付いた。
九瑠璃は慣れているようで何も言わず、ここは自分が止めるべきだろうかと悩んでいるとーー突如、異質な音が紛れ込んだ。

「どけコラぁ!」

歩行者天国となっている繁華街に、鼻息を荒くした男の声が響き渡った。

大声を聞いてびくりと肩を震わせたなまえがその声の方向に反射的に目を向けると、帽子を被った中年男が、人混みを無理矢理押しのけながら通りを駆け抜けようとしている姿が目に映る。

自分達に向かってきているわけではないが、少し離れた方が良いだろうかとなまえが考えている間に、通りに居た者達が騒ぎ始めた。

(おぉい! やべえって!)(静雄かサイモンいねえのかよ)

(早く逃げようよ!)(警察呼べ警察!)(うお、こっちくんぞ!)

「え!? なになに!? どーいうこと!?」

騒ぎ声が耳に届いた舞流がエロ本から視線を外して、きょろきょろと辺りを見回す。

「静(はしゃがないの)」

「えっちぃ本読んでて気付かなかったけど、なんでみんな騒ぎ始めたの!?」

「黙(だまって)」

妹達のやり取りを聞きながら、なまえは男の動向を注視した。すると、何処にでもいる普通の青年が男の前に姿を見せた。そしてタックルを仕掛けようとした男は、青年に顔を蹴られ、その場に立ち止まった。

「……!」

「はーい、ナマエ姉はここまでー。終わるまでこのままね」

少し離れているとはいえ、普段あまり目にしない光景を目の当たりにして表情を強ばらせたなまえだったが、次の瞬間、舞流の両手によって視界が遮られてしまった。ちなみに先程まで舞流が読んでいたエロ本は九瑠璃の手に渡っている。

「まいちゃん……?」

「終わったら離してあげる。あんま見たくないでしょ?」

「丈(大丈夫だから)」

舞流のエロ本をカバンにしまった九瑠璃が自分の両手でなまえの両耳を覆う。なまえは妹達によって視覚と聴覚が閉ざされ、男がどうなるのか知る術が無くなった。

やがて青年の手によって男は意識を失い、誰かが通報したのか警察がやって来たため青年は取り巻きの女性達と共にその場を後にした。





◆170816







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