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「臨也、朝ご飯出来たよー。」
「ありがとう、なまえ。」
今日は私が朝食を作った。臨也のリクエストで和食にしたので少し時間が掛かってしまったけど、臨也はテレビを見ていたので大丈夫だろう。
声を掛けると、臨也はすぐにこちらにやって来た。向かい合うように椅子に座り、挨拶を済ませてから食事を始める。
「いただきます。」
「いただきます。」
「…さっきニュースでやってたんだけどさ、今日って高校の入学式なんだねえ。」
熱いお茶を冷ますために息を吹き掛けていると、臨也がそんなことを言い出した。
「そうなんだ。懐かしいなぁ…。」
私達が高校生だった頃を思い出してぽつりと呟く。
すると、臨也は面白くなさそうな顔をしていた。もしかしなくても、平和島くんのことを考えているのかな…?
「…今日はバイト休みなんだよね?午前中は仕事だけど、それが終わったら夕方まで時間あるから、前になまえが行きたいって言ってた池袋のカフェに行こうか。」
「良いの?行きたい!」
話題が変わったことに気付きながらも、私にとって嬉しい提案に笑みを浮かべた。
あそこのカフェ、ずっと行きたかったんだけど、一人では行きづらかったから嬉しいな。臨也となら尚更ね。
「仕事が終わったら連絡するから、待ってて。」
「はーい。」
何を着て行こうかな。楽しみだな。
♂♀
さて、仕事自体は終わったけど、もう一つやっておかなければならないことがある。
俺の予想だと、この辺で会えるんじゃないかな?なーんて、予想っていうより、情報を元に考えただけだけど。
これが終わればなまえに連絡しよう。なまえのことだから、出掛ける準備は終わってるだろう。
きょろきょろと辺りを見回しながら、目的の人間を探し求めていると、
ーー見つけた。
気付かれないように気配を消しながら、ゆっくりと近付いていく。
「やあ。」
黒髪の少年と茶髪の少年の背中に声を掛けると、茶髪の少年は恐る恐るといった様子でこちらを向き直る。それにつられて黒髪の少年もこちらに目を向けた。
「久しぶりだね、紀田正臣君。」
「あ…ああ…どうも。」
茶髪の少年ーー紀田君はぎこちない言葉を口にした。紀田君の目には怯えと嫌悪が入り混じり、なおかつその感情を無理矢理押さえ込んでいるように顔の筋肉を強張らせていた。
「その制服、来良学園のだねえ。あそこに入れたんだ。今日入学式?おめでとう。」
そんな紀田君の態度には何も言わず、淡々と祝いの言葉を紡ぐ。
「え、ええ。おかげさまで。」
「俺は何もしてないよ。」
「珍しいっすね、池袋に居るなんて…。」
「ああ、ちょっと友達と会う予定があってね。そっちの子は?」
ま、本当は友達じゃないけどね。
挨拶もそこそこに、本題に入る。俺が会いたかったのは紀田君じゃなくて、この黒髪の少年だ。
少年に視線を向けると、一瞬だけ視線が交錯した。
「あ、こいつはただの友達です。」
「俺は折原臨也。よろしく。」
どうやら紀田君は、少年と俺と接触させたくないらしい。でも、そいつは無理な相談だ。
紀田君を無視して、俺が自分の名前を告げると、何か思うことがあったようで、少年の態度が少し変わった。俺について何か聞いたのかな。
「竜ヶ峰帝人です。」
「エアコンみたいな名前だね。」
少年のフルネームを聞き、純粋な感想を漏らした。
目的は達成したし、今日のところはこのくらいで止めておこうかな。なまえとのデートもあるしね。
「じゃ、そろそろ待ち合わせの時間だから。」
軽く手を挙げて話を打ち切り、その場を立ち去った。
◆160906
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