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チャットルームーー
折原臨也、復活!
折原臨也『この前の集団暴走事件とセルティ達のことで聞きたいことがある。』
九十九屋真一『お。来たか。いらっしゃい。』
折原臨也『挨拶は結構だ。……結局のところ、あのとき、何が起こってたんだい?』
九十九屋真一『へえ、お前が事件に積極的に関わってないなんて珍しい。』
折原臨也『茶化すのはやめてくれ。それなりの代償は払う。』
九十九屋真一『ハハ! まあ報酬の件は後で良いさ。実際のところ、俺も話したくて仕方ない。』
♂♀
折原臨也『……最後に聞きたい、なまえが巻き込まれたのは何故だ?』
九十九屋真一『本人に聞けば良いじゃないか。』
折原臨也『よく分からないの一点張りなんだよ。』
九十九屋真一『お前に言いたくないだけだったりしてな。』
折原臨也『……俺に隠すようなことでもないだろ。』
九十九屋真一『相変わらず彼女に対しては甘いな。』
折原臨也『俺の勝手だ。分からないなら良い。』
九十九屋真一『彼女も池袋の休日に巻き込まれた。それで良いじゃないか。』
折原臨也『……。』
九十九屋真一『そんな拗ねるなよ。池袋は休日を楽しんだんだ。新宿に居たお前が関われなかったのは良いことだ!』
折原臨也『まだそんな馬鹿なことを言っているのか? ……今日はこれで失礼するさ。』
九十九屋真一『ああ、静雄に殴られないように気を付けろよ。サイモンにもな。』
折原臨也『いつか、リアルのお前の住所を探り当てたときを覚えておけよ。』
折原臨也、死亡確認!
九十九屋真一『分かってると思うが、俺はいつでも、24時間このチャットルームに居るからな。』
九十九屋真一のターン!
九十九屋真一のターン!
九十九屋真一のターン!
♂♀
チャットルームーー
田中太郎【そう言えば今日、知り合いと鍋を囲んだんですよ。】
セットン【偶然ですねー、私もですよ。】
甘楽【ええっ!? お鍋? こんな時期にですか!?】
狂【あら、偶然ですわね! 私達も本日はしゃぶしゃぶを楽しませて頂きましたの!】
参【美味しかった。】
内緒モード 甘楽【ああ、また来てたのか。お前らまで。何処で鍋なんて。一緒に鍋やる友達なんていたのか?】
内緒モード 狂【あらあら。乙女の友情に簡単に割り込めるとは思わないで頂きたいですわね、兄さん。】
参【内緒。】
田中太郎【?】
内緒モード 甘楽【だからマイルはとっとと内緒モードの使い方を覚えてくれ……!】
バキュラ【俺も友達の女の子と、二人きりでスキヤキを食いに行ったんですよ。ほら、知りませんか? 1500円ぐらいで食べ放題になるスキヤキのお店。】
田中太郎【あー、チェーン店でありますよね!】
罪歌【おなべ、せっとんさんとたべました。おいしかったです。】
甘楽【まったくもー、みんな季節感なさ過ぎですよッ?】
甘楽【鍋物なんて、冬にだけ食べてれば良いんですから!】
♂♀
新宿某所 臨也のマンションーー
「あのさ、波江。」
「なに?」
自分のノートパソコンに向かって淡々と雑務をこなす波江に向かって、デスクトップの画面を見つめながら、爽やかな笑顔で言葉を紡ぐ。
「鍋でも奢ってあげようか? しゃぶしゃぶでもカニ鍋でも、好きなものを選ぶと良い。」
「チャット仲間がみんな鍋してるからって、自分の虚栄心を満たすのに私を利用するのはやめてくれない?」
波江の言葉に、臨也は頬を僅かに引きつらせて首を振った。
「……見てたのか。」
「ずっと前からね。」
「さては……俺の妹達に、セルティのことを教えたのも君か?」
「どうかしらねえ。……あら、貴方のネカマ言葉、最近ますます気持ち悪いわね。なまえに見せたらさすがに引かれるんじゃない?」
唐突に出てきたその名前に、臨也はすっと目を細める。そして、波江に対しても釘を刺した。
「……なまえにこのチャットのことを教えるつもりはないよ。クルリ達にも釘を刺してるし、君が余計なことを言わなければ知られることはない。」
雑務をこなしながらチャットの様子を自分のパソコンで覗き見ていた波江は、臨也を一瞥すると意地の悪い笑みを浮かべて皮肉を紡ぐ。
「はいはい。……それにしても……貴方もちょっとは人間らしいところがあるのね。さすがは永遠の21歳といったところかしら?」
「君、なんかだんだん侮れない人間になってきてるよね……。くそ、やっぱり参加者以外の閲覧禁止にした方が良いな。九十九屋のところみたいに。」
ぶつくさと文句を言いながら、今回最後まで蚊帳の外だった黒幕気質の男は窓の外に目を向ける。
臨也はチャットの中で楽しそうに日常を謳歌する面々を羨みーー窓から空を見上げながら、池袋という街そのものを羨んだ。
そんな男の嫉妬すらも呑み込んでーー街は、今日も休日を謳歌する。
一頻り池袋の休日を羨んだ後ーー臨也は、静かに目を閉じ嗤う。
「そうだねえ……俺もそろそろ、休日を楽しむかな。」
今回の事件で完全に除け者となっていた男は、そのことに対して復讐するかのように、ただ、嗤う。
「火種は、本当に何処にでも、いくらでも転がってるんだ。」
臨也は静かに笑いながら、波江の前で独り言のように口を開く。
「俺がやるのは、その火種を掠め取ってーー一ヵ所に放り込んでやるだけさ。」
火種が燃え上がったときのことを想像したのか、どこか恍惚とした表情で首を振る情報屋。
「そして俺は、その『街』とやらに言ってやるのさ。」
楽しそうに楽しそうに、自分自身に言い聞かせるようにーー敢えて自分に酔いながら、ほんの僅かに憎しみを織り交ぜ、臨也は一言呟いた。
「“休日は終わりだ糞野郎“ってね。」
◆170430
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