11


セルティは影を三本目の腕のように操り、走行しながらPDAの文字を打ち込んだ。そして、それを器用にバンと併走しながら、開いている窓から助手席の門田に投げ渡す。

「……! おい、黒バイク、これ……本気か?」

PDAを返しながら門田が尋ねるが、セルティは静かに親指を上に突き出した。

「……そうか。なあ、黒バイク、俺は、あんたの名前を知ってるが、あんたから直接聞いたわけじゃねぇ。だからこう言うのもなんだがーー」

セルティとはほとんど会話をしたことのない男が、真剣な目つきをして、親指を突き出し返しながら淡々と告げる。

「後でちゃんと礼を言わせろよ、セルティ。」

その声を聞きながら、セルティは静かに覚悟を決め、徐々に心を静めていく。

決意と共に、セルティは音もなく手から鎌を生み出しーー背後を牽制するように振り回しながら、門田のバンと共に一つの場所へと向かう。
距離は大して離れておらず、運良く信号に引っ掛からずに進み続けることが出来た。セルティ達はほんの一分程度で目的の場所ーー池袋駅の西口と東口を結ぶ、線路の下をくぐるガード下にまで辿り着いた。

バンはそのまま停車せずに走り続けるがーーセルティは、その場で相棒をターンさせ、ゴムのタイヤとは異なる歪なスリップ音を響かせながら、コシュタ・バワーを急停車させる。

セルティはタイミングを見計らって巨大な影の鎌を振り上げーー

次の瞬間、巨大な蜘蛛の巣のようにーーセルティの鎌から延びた無数の縄が、ガード下のトンネル内に巨大なネットを生みだした。



♂♀



「よし、お前らはとっとと下りて逃げろ、駅の中ぁ通るか、すぐそこの警察署に駆け込むか……とにかく、突然巻き込まれて何が何だか分からないって言っておきゃ大丈夫だからよ!」

トンネルを抜けて背後が見えなくなったところで、門田は後部座席の扉を開き、帝人達に声を掛ける。帝人は残ろうとしていたようだが、後続に押される形で強制的に弾き出される。

「なまえも妹達と行け。」

「う、うん……ごめんね、門田くん。」

とりあえず車内から出たものの、帝人達と一緒に逃げるのも悪いと考えていたなまえに、門田は声を掛けた。そして、自分がこの場に居ても役に立たないと自分に言い聞かせて、妹達と逃げることにした。

しかしーー杏里が何処かに向かって走っていくのを見て、なまえもその後を追った。

「あああ、竜ヶ峰先輩も園原先輩もなまえさんも、何処に行っちゃったんだろう。」

バンから降ろされた直後ーー帝人は『園原さんと、なまえさんと、その女の子達をお願い!』と言って何処かに駆け出し、青葉が気付いたときには、杏里となまえの姿も何処かに消えてしまっていた。

「……にしても、竜ヶ峰先輩、やっぱり……。いや、今はいいや。」

周囲を見回しながらおろおろする青葉の背後には、九瑠璃と舞流が手を繋いで立っている。

「行(どうする)?」

「んー、とりあえず様子見かな? どうなっちゃうのかわかんないけど、まさかあんなに近くで見られるなんてね!」

「……。」

真剣な表情でガード下に向かう道を見つめている九瑠璃。
それとは逆に、からからと爽やかな笑いを振りまきながら、舞流も独り言を呟いた。爽やかさの中に、ほんの一欠片だけ毒の色を混じらせて。

「さーて……私達、ちゃんと"セルティさんにご挨拶出来るかな"?」



♂♀



ガード下で、セルティは混乱していた。

突然彼女が運んでいた『荷物』が目を覚まし、迫り来る暴走族達を素手で牽制し始めたのだから。

何が何やら分からず、セルティはバンの方に目を向ける。門田達は無事だろうかと心配しての行動だったがーーその先に、更なる心配の種を見つける。

逃がしたはずの、帝人と杏里、それになまえがこちらに向かって来ているのだ。

何故戻ってくるのかと混乱するセルティに、更に混乱させる出来事が起こる。

セルティの生み出した網の向こう、数十台のバイクを置き去りにした暴走族達が、黒い網を突破しようとしているその背後に、"首から上が存在しない"、中世風の甲冑騎士の姿があったのだ。

そして、首無し騎士は、荷物だった男と共に、暴走族達を倒していった。





◆170127







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -