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「二人とも、どうしたの? 門田くん達と知り合いだったっけ……?」
「んーと、ちょっと絡まれたところを助けてもらったの。」
「え……っ。」
なまえが気になったことを尋ねると、舞流はあっさりと答えた。それを聞き、九瑠璃と舞流も臨也が原因で絡まれたのだろうかと不安になる。それを察したのかは分からないが、舞流が説明を加えた。
「クル姉とキスしたらさー、黒バイクの賞金目当ての奴らに絡まれちゃって。」
「あ……そうなんだ。」
姉妹でキスしたことには特に突っ込まず、どうやら臨也は関係無さそうだと知りほっと胸を撫で下ろすなまえ。
姉妹の会話を聞いていた青葉が自分も会話に入ろうとすると、黒バイクに乗ったセルティがバンに横付けをし、セルティに気付いたバンの中の人間が様々な反応を示した。
「……セルティ……。」
セルティと仲良くしているなまえは、小さな声で名前を口にした。そして、昨日臨也に言われたことを思い出した。
【セルティに高額な賞金が掛かってね、落ち着くまで会わないようにしてくれる? もし偶然会っても無視して。じゃないと、賞金目当ての奴に狙われるから。】
まさか翌日に会うとは思っていなかったため、どうしたものかと悩むが、そんななまえに気付く者はいなかった。
セルティは速度を調節して完全にバンと併走し、器用に片手で運転しながらPDAに文字を打ち込んだ。
『ごめん、暴走族に追われてる! 逃げて!』
「悪いけどよお……謝るのはこっちかもしれねえぜ、黒バイクさんよぉ。」
セルティが必死になって打ち込んだ文字に対し、門田は苦笑を浮かべながら一言告げた。
その瞬間、背後から派手なクラクション音が響き始めた。セルティが振り返ると、そこに見えたのはやはりバイクに跨った暴走集団。
「俺らも、追われてんだ。」
その暴力と鬱憤の塊は、セルティを追ってきた者達と合流しーー五十台を超える大集団となって、台風のような勢いで、実に人間らしい殺意をこちらに向けて追い迫る。
『絶望的か?』
「なあに、希望は一個ある。」
セルティがヘルメットを傾げさせると、門田はニヤリと笑いながら口を開いた。
「こいつらは全員"よそもん"で、俺らは一応ダラーズっつうチームだろ? 縄張り荒らされてる側として……遠慮なく殴り返せるってこった。」
♂♀
「こ、これ、どうしましょう! 警察に通報を……。」
恐る恐る尋ねる帝人に、門田が首を振って答えた。
「多分もうとっくに通報はされてるはずだ! さっきちらっと白バイが見えた! ……安心しろ、お前ら学生連中だけは最低限逃がしてやらぁ。いざとなりゃ、警察署に直接突っ込んでやらぁな。」
帝人と門田のやり取りを聞き、なまえは無事に帰宅出来るだろうかという不安が大きくなる。そして、臨也に連絡しようとカバンから携帯を取り出すと、運悪く充電が無く、電源が入らなかった。
「そんな……。」
冷静に考えれば妹達の携帯を借りるという手があるのだがーー暴走族に追われるという非日常に迷い込んだため、その考えに至ることはなかった。
拳を握る帝人の顔を見ていた青葉は怪訝な表情で声を掛ける。
「あの、竜ヶ峰先輩、大丈夫っすか?」
「え? あ、あ、ああ、大丈夫だよ。ごめん、君達だけでもなんとか……。」
「いや、そうじゃなくて……いや、何でもないです。」
「?」
歯切れの悪い青葉に疑問を抱きつつーー帝人は、改めて窓から外を覗き込む。
セルティのバイクの横には何か黒いサイドカーのようなものが取り付けられており、やはりその上に何かの荷物を載せているように見えた。
「セルティさん……やっぱり、賞金を掛けられたから……。」
ほんの一瞬だけ、セルティの姿を見て、少年は状況にそぐわない言葉を口にした。
「もう……気軽に会えなくなっちゃうのかな……。」
◆170122
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