09


東急ハンズ前ーー

「あ……杏里ちゃん?」

「なまえさん……? どうして此処に……?」

なまえは特に用事が無いため、青葉に誘われるまま東急ハンズ前に行くと、そこには杏里が立っていた。自分の知らない人間だったらどうしようと少し不安だったなまえは、顔見知りの存在に密かに安堵した。

「知り合いなんですか?」

「はい、ちょっと……。」

「そうなんですね。」

青葉は小首を傾げるが、二人が知り合いだと分かるとにっこりと笑った。そして、何かを探しているのか、きょろきょろと辺りを見回した。

するとーー、帝人が現れた。

「あ、あれ? もう来てたんだ? ……って、なまえさん……?」

「あ、帝人くん。久しぶりだね。」

「あれ? 二人とも知り合いなんですか?」

なまえが帝人に挨拶をすると、青葉は不思議そうな顔をした。帝人はなまえが此処に居ることを不思議に思いながら、青葉に返事をする。

「前にちょっとね。……それより、どうしてなまえさんが居るの……?」

「……えっと、青葉くんが誘ってくれたの。」

「そ……そうなんですね。」

臨也が原因で見知らぬ男達に絡まれていたところを助けてもらったとは言いづらく、短く説明するなまえ。帝人も杏里もなまえと青葉が何故知り合ったのか気になったものの、特に追及することはなかった。

「ところで……なまえさんはダラーズのメンバーなんですよね?」

「え? ……あ、いえ、私は入っていませんよ。」

青葉の問いに、なまえは首を左右に振る。なまえ自身はダラーズに興味があるものの、臨也に入らないように言われているため、ダラーズに入っていない。

「へぇ……てっきりダラーズの人なんだと思ってました。」

何故そう思ったのかなまえが青葉に尋ねようとするとーー帝人の両側から、180センチを超えようかという長身の男達が現れた。

「ちょっといいですかぁー?」

「貴方の幸せを祈らせてくださぁーい。」

「!? ? ? な、な、なんでしょう?」

「いいから面見せろ。」

慌てる帝人の意思を無視して、長身の男達は帝人の顔を押さえ、冷徹な声を紡ぎ出す。

「こいつか?」

「こ・い・つ・だ! ビンゴビンゴ。確変入りましたぁー。」

何がビンゴなのか、嬉しそうに顔を見合わせる男達。
突然のことにあっけに取られている青葉達を余所に、男達は下卑た笑いを浮かべながら帝人に煙草臭い顔面を近付けた。

「こないださぁー君、居たよね? 俺らが門田とかにボコられてるとき、黒いバイクと一緒に廃工場に居ましたよねぇー? あぁ?」

「今日は俺ら、黄色い布とか巻いてないから油断しちゃったぁ?」

「……ッ!」

黄色い布という単語で、帝人の心が一気に混沌に震え上がる。

「……貴方達は……。」

男達は、黄巾族の残党だった。正しくはブルースクウェアの残党だったが。

男達はセルティに懸けられた賞金を求めて、帝人に接触してきたのだった。帝人の携帯が男達に奪われそうになるも、普段の板前衣装ではないサイモンが帝人を助け、帝人は青葉達に声を掛けて駆け出した。

「ご、ごめん! 僕のせいでいきなりこんなことに巻き込んで……!」

「いやその、巻き込まれたもなにも、被害を受けてたのは先輩だけなんですけど。」

帝人と青葉の会話はそこで途切れてしまった。何故ならーー路地の各所から、携帯電話で連絡を受けたと思しき男達がこちらを追ってきたからだ。

「おい、マッシー達はどうする!?」

「ほっとけ! サイモンは全員でかかってもやべえし、あそこで揉めてっと静雄が来る!」

そんなことを叫びながら、帝人を追う青年達。全力で駆ければ20秒と掛からずに追いつく距離だ。

しかしながらーー彼らにとっては運の悪かったことに、そして、帝人達にとっては運の良かったことに、この近辺で、少年達は別の人間とも待ち合わせをしていたのだ。

「ひッ!?」

唐突に帝人達の前に停車したバンを見て、新たな追っ手かと悲鳴をあげる帝人。だが、その助手席に座る男に見覚えがあり、途端に顔を輝かせる。

「か、門田さん!」

帝人達はぎりぎりのところでバンに乗り込み、チンピラ達の手が届く直前に扉を閉めることに成功した。

「た、たたた、助かりました!」

「いいっていいって。待ち合わせにちょっと遅れちゃってごめんねー。」

バンの中は意外と混んでおり、後部のスペースには帝人達四人の他に、狩沢と遊馬崎、そしてーー帝人には見覚えのない少女が二人座っていた。
なまえがその少女達の名前を紡ぐ。

「くるちゃん、まいちゃん……?」

「ナマエ姉!」

「姉(姉さん)……?」

デスレースに巻き込まれた状況下で、入学式ぶりに、姉妹が再会した。





◆170114







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