08


「……折原臨也っていう人は、なまえさんと"どういう関係"なんですか?」

私の目の前に居るのは、幼い顔立ちをした男の子ーー黒沼青葉くん。名前を名乗ってから先に出された冷たい水を一口飲み、笑顔で尋ねてきた。

「え……? 私、名前言いましたっけ……?」

「いえ、なまえさんからは聞いてませんよ。ただ、さっきの奴らが言ってたのが聞こえちゃって。」

「あ……そうなんですか……。」

黒沼くんは笑顔のまま説明してくれた。それ自体は納得したけれど……どうして、臨也のことを聞いてくるのだろう……? 少し、不思議に思った。

「それで、"どういう関係"なんですか?」

「……双子の兄、ですよ。」

もう一度関係を聞かれたため、事実を伝えた。黒沼くんは予想外だったのか、きょとんとした。

「へぇ……。どんな人なんですか?」

「えっと……。」

黒沼くんみたいな子は臨也と関わらない方が良いと思うけれど、何故か興味を持っているみたい……。
うーん、どう説明しようかな……。事実を伝えるなら、新宿で情報屋をやっていて、人間が好き……だけれど、信じるかな……?

「なまえさん?」

「あ、えっと、その……優しくて、格好良い人……ですかね……。」

「……優しくて、格好良い……。」

間違ってはいない。でも、大事な部分は言えなかった。やっぱり信じてもらえなさそうな内容だし……。
黒沼くんは私の説明を小声で復唱した。そして、私が聞かれたくないと思っていたことを聞いてきた。

「じゃあ、さっきの奴の彼女が折原臨也に騙されたみたい……っていうのは、どういうことなんでしょうか……。」

「……! そ、それは……。」

……さっきの男の人の言葉が事実だとしたら、臨也が何かしたんだと思うけれど……それを説明するのは、気が進まない……。きっと、私が知らないいろいろなことをやっているんだろう。

「お待たせしました。」

私が言葉に詰まっていると、店員さんが注文したものを運んできてくれた。黒沼くんはオレンジジュース、私はアイスティーだ。話を一旦打ち切る良いタイミングだと考えて、黒沼くんにそれを飲むように促した。

「どうぞ。」

「……ありがとうございます。」

黒沼くんはお礼を言ってから、オレンジジュースを飲み出した。私もアイスティーに何も入れずに、一口飲んだ。
こうやって見ていると、可愛らしい男の子なんだけれど……なんて思っていると、先程とは別の質問が飛んできた。

「なまえさんって、好きな人はいるんですか?」

「え……っ、……はい、いますよ。」

この質問……正臣くんにもされたなぁ。あのときは臨也のことだってバレないようにしたっけ。結局、正臣くんにも杏里ちゃんにも、私が臨也の双子の妹で、臨也が好きって言えなかったな……。

「……もしかして、その人が折原臨也だったり……?」

「……!」

まさか当てられるとは思っていなくて、私は驚いた表情をしてしまった、と思う。黒沼くんはオレンジジュースを少し横に移動させて、テーブルに頬杖をついた。

「……当たり、みたいですね? でも、双子……なのに、まさか付き合ってたり……しませんよね?」

「……。」

『私が一番聞かれたくないと思っていたこと』を聞いてきた。

……そんなことは分かっている。臨也と私は双子の兄妹で、禁断の関係を持っているって。それでも、臨也が私を好きで、私が臨也を好きなら、一緒に居たい。ーー他人にどう言われようと、構わない。

私は右手をテーブルの下に隠して、ぐっと拳を握り締めた。

「……俺、まずいこと聞いちゃいましたか?」

「いいえ……黒沼くんの勘が鋭いなって思っていただけですよ。」

「じゃあ、本当に付き合ってるんですか?」

「はい。」

頬杖をつくのを止めた黒沼くんが目を見開いている。私は笑みを浮かべて小さく頷いた。

「……隠さないんですか? そういうのって、バレたらまずいんじゃないですか?」

「そうですね……でも、気付く人は気付きますから……。」

まぁ、外で手を繋いで歩いたり、この年齢で一緒に住んでいるんだから、バレるよね……。くるちゃんとまいちゃんも知っているし。……さすがに両親には言ってないけれど。

「……そう、ですか。でも、いくら好きな人でも、その人のせいでああいう風に絡まれるのって怖くないですか?」

「……怖い、です……。」

怖いか怖くないかで答えるなら、怖いとしか言えない。ただ、今まで何度も危ない目に遭いそうになっているけれど、それが理由で臨也から離れようと思ったことは無い。

「……すみません。少し気になって、質問ばかりしちゃいました。」

「大丈夫ですよ。」

このまま臨也とのことばかり聞かれるのかと少し不安だったけれど、そうではなさそうで内心ほっとした。

そして黒沼くんはお店の時計を見て、ぽつりと漏らした。

「あ、そろそろ待ち合わせの時間か……。」

「そ、そうなんですか? じゃあ、出ましょうか。」

予定があるのに私のお礼のために時間を取らせちゃって悪いことをしたな……。
アイスティーを飲み干して、伝票に手を伸ばすと、黒沼くんもオレンジジュースを飲み干して"ある誘い"を持ち掛けてきた。

「……せっかくですし、なまえさんも来ませんか? 高校の先輩に池袋案内を頼んでるんです!」





◆161229







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