07
翌日午後 池袋ーー
「うーん……。」
今日はバイトはお休みで、臨也は波江さんとお仕事だから家を出てきたのは良いけれど、特に行きたい場所が無い。朝にくるちゃんとまいちゃんに連絡したら、『今日は大事な用事があるから駄目なの。』って断られちゃったし……友達も予定があるみたいだし……。
つまり、今日は夜まで一人で過ごさなければいけない。
どうやって時間潰そうかなぁ……。やっぱりウィンドウショッピングかカフェ巡りかなぁ……。でもカフェ巡りって言ってもひたすら食べ続けることは出来ないし……。
乙女ロード近くで一人でぼんやりとしていると、見知らぬ二人組の男の人が歩み寄ってきた。……何となく、嫌な予感がする。
「君さぁ、折原なまえだよねぇ?」
「……。」
「いや、間違いないって。折原臨也と一緒に居るとこ見たし。」
嫌な予感が的中してしまった。周りを見ると、今はあまり人気が無い。助けを呼ぶことは難しそう……。走って逃げた方が良いかな、なんて考えている内に、二人に挟まれてしまった。
私は相手の意図を確かめることにした。
「……あの、何の御用ですか?」
「いやぁ、こいつの彼女が折原臨也に騙されたみたいでさぁ……こいつすげー怒ってるんだよねぇ。」
「だーかーら、やり返そうと思って……折原臨也があんたを大事にしてるって聞いたから……後はまぁ、分かるよな?」
「……!」
やっぱり走って逃げようと思い、私が動こうとすると、二人に両腕を掴まれてしまった。腕を掴む力がそれぞれ強くて、少し顔が歪んだ。これじゃあ臨也に連絡することも出来ない……。
「逃がさないよぉ? ま、俺らも鬼じゃねぇし……満足したら解放してやるから。」
「とりあえず、移動するかーー」
「あのっ。」
このまま何処かに連れて行かれるのだろうかと不安でいっぱいになったそのとき、幼い声が聞こえた。全員声がした方を見ると、そこには声と同じく幼い顔立ちをした男の子が立っていた。
「……あ……。」
この子、昨日の夜にケーキを買いに来てくれた子だ……!
「あ? 何だよ、ガキ。」
「その人、嫌がってるじゃないですか。無理矢理なんて酷いですよ。」
「……んだと? てめぇに関係無いだろ!」
二人は男の子に対して怒りをぶつける。しかし、男の子は動じていない。むしろ、うっすらと笑って、事実であるかのようにさらりと嘘を吐いた。
「ありますよ。……だって、俺とデートする約束してるんですから。」
「はぁ? 何言ってんだ。」
「だからその手を離して消えてください。……じゃないと、俺のこわーい友達を今すぐ呼んじゃいますよ?」
男の子の吐いた嘘を肯定するか否定するか悩んでいる間に、事態は更に悪い方向へと進みそうになっている。
「チッ……めんどくせーな。今日は見逃してやるが……今度会ったら覚えとけよ。」
「どうも。」
しかしーー二人は私の腕から手を離して、その場を去っていった。とりあえず危機が去ったことに安堵して溜め息を漏らすと、男の子がじっと私を見てきた。私は慌てて男の子に向かって頭を下げた。
「……あ、ありがとうございました。」
「いいえ。ナンパって感じじゃなさそうだったんで……。」
「助かりました。……あの、ご迷惑でなければ、何かお礼をさせてください。」
「え……、そんな、気にしないでください。」
断られた……! 私の言い方が良くなかったのかな?
「で、でも……私の気が収まらなくて……。あ、時間が無いなら後日でもーー」
「それなら、あのカフェで……お願いします。」
困ったように笑いながら男の子は近くにあったカフェを指差した。私は小さく頷き、男の子と一緒にそのカフェに入った。店内は空いていて、奥の四人席のテーブルに通してもらった。
「……お好きな物を頼んでくださいね。」
「ありがとうございます。……じゃあ、オレンジジュースにします。」
テーブルにメニューを広げて、私も何を頼むか決めて、店員さんに注文をした。メニューをテーブルの端に置き、何か話さなければと考えていると、男の子が笑みを浮かべて、口を開いた。
「自己紹介がまだでしたね。俺、黒沼青葉っていいます。」
◆161224
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