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3日前 新宿 某マンションーー

「そう言えばーー貴方の妹達も、今日からあそこの生徒だったわね。」

「……よく知ってるね。」

僅かに、臨也の表情が硬くなる。

「こっちだって、自分の仕える王様のことぐらいは調べてるってことよ。」

「……まあ、その、俺がいつもやってることではあるけどさ。」

自分がやられるのは良い気分ではない。そう言いたげに苦笑するが、諦めたように仕事の手を止め、椅子に寄り掛かりながら独り言のように呟いた。

「苦手なんだ、あの二人は。」

「あら、貴方に平和島静雄以外に苦手なものがあったなんて。」

「茶化すなよ。俺だって人間だよ? 完全じゃあないさ。」

そこで大きく息を吐き出し、臨也は自分を取り巻く環境について話し始める。

「俺の妹……『九瑠璃』と『舞流』っていうんだけどさ……。なんていうか、俺の両親は普通だよ。名前のセンス以外はね。だけどーー俺はそんなまともな環境の中でこんな人間になってしまったわけだ。」

「あら、自分が変態だって自覚はあったのね。」

波江の皮肉を受け流しながら、臨也は両手を組み、絡んだ指をもぞつかせながら語り続けた。

「俺は環境に関わらずに変になったんだがーーあいつらの場合は、多分俺に影響を受けて変になったんだと思う。さすがに、そこには少しだけ負い目を感じていてね。」

「変って、どんな風に?」

「あの二人が目指しているものはーー『人間』だ。」



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3日前 池袋某所 アパート内ーー

臨也と波江が九瑠璃と舞流について話した日ーー来良学園の入学式ーーの夕方に、なまえは妹達のアパートを訪れていた。

「くるちゃん、まいちゃん、入学おめでとう!」

「ありがとう、ナマエ姉!」

「謝(ありがとう)。」

なまえは二人と向かい合って座り、テーブルにはイチゴがふんだんに使われた生クリームのホールケーキが置かれていて、紅茶の入ったカップも人数分置かれている。

「二人も今日から高校生かぁ……。」

「時間が経つのって本当に早いよねー。」

「あ、ケーキ切るね。ちょっと待って。」

ホールケーキの近くに置いていた包丁を使い、三枚の皿に切り分けたケーキを載せるなまえ。メッセージプレートは二枚に分けたため、それぞれに載せた。

「はい、どうぞ。」

「いただきまーす!」

「……始(いただきます)。」

なまえはにこにこと笑いながら、二人がケーキを食べる様子を眺めている。二人はそれぞれフォークに一口分のケーキを載せ、食べさせ合った。

「クル姉、あーん。……ん、美味しい!」

「……良(美味しい)。」

「良かった。私も食べようかな。」

二人の感想にほっと胸を撫で下ろして、なまえもフォークを手に取り、ケーキを食べ始める。そして、ふと思い出したことを口にした。

「そう言えば、臨也から何か連絡あった?」

「んー、何にも無いよー?」

「そっか……二人の入学祝いに二人の食べたいものを食べに行こうって言ったら、連絡しとくよって言ってたんだけれど……。」

「そうなの? やったー! 何にするか考えとくね!」

舞流は上機嫌で言い、隣に座っている九瑠璃は小さく頷いた。なまえは帰ってから確認しようと考えて、そのままケーキを食べ続ける。

「ナマエ姉のバイト先のケーキが一番美味しい!」

「ふふ、ありがとう。まだ食べられる?」

「うん、食べたい!」

「……同(私も)。」

二人はあっという間にケーキを食べきり、残っているケーキをじっと見ていたため、なまえが問い掛けると、二人とも肯定した。その様子に小さく笑い、なまえはケーキを食べる手を止め、それぞれの皿に切り分けたケーキを載せた。



ホールケーキはほとんど二人が食べてしまい、しばらくの間三人でいろいろなことを話していたが、舞流が時計を見て小首を傾げた。

「あ、ねぇ、夜ご飯はどうするの? 一緒に食べられる?」

「えーっと……ごめん、臨也と家で食べる約束してるんだ……。」

「それなら、私達も一緒に、」

困ったように笑うなまえに舞流が四人で食べることを提案しようとすると、アパートのドアが開き、

「駄目だよ。」

兄の臨也が現れた。アパートの鍵をコートのポケットに入れて、玄関で靴を脱いでから部屋に上がる。

「イザ兄だ! なんで駄目なの?」

「……私(一緒に)……食(食べたい)。」

「お前らとはまた別で行くからそれで良いだろ。なまえ、帰る支度して。」

「う、うん。」

不服そうな二人を一蹴して、きょとんとしているなまえに声を掛ける臨也。なまえはすぐに立ち上がり、ハンガーに掛けていたコートを手に取り、それを着る。

「ケチ! イザ兄ばっかりナマエ姉を独り占めしてずーるーいー!」

「姉(姉さん)……。」

「……ごめんね、くるちゃん、まいちゃん。また来るから、ね?」

舞流は臨也に文句を言い、九瑠璃は寂しそうな目をなまえに向ける。なまえは少し申し訳なく思いながらも、二人よりも臨也を優先することにした。

「うー……約束だよ。またメールしてね。」

「……再(また今度)。」

「うん。ばいばい。」

渋々諦めた二人を部屋に残して、なまえは臨也と一緒に部屋を出た。なまえが臨也の手を取ると、少し冷えていた。あることを予想して、隣を歩く臨也に問い掛ける。

「……もしかして、ドアの外に居たの?」

「……ちょっと、タイミングが掴めなくてね。」

「気にしなくて良かったのに……。でも、迎えに来てくれて、ありがとう。」

ばつが悪そうに答える臨也に少し驚くも、臨也が来てくれたことは素直に嬉しく、お礼を言う。

「最近、俺の仕事の関係であんまり一緒に居られないからね。さぁ、帰ろうか。」





◆161217







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